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抑制から拡大へ 再転換する「医療人」育成の方針


抑制から拡大へ 再転換する「医療人」育成の方針
 後期高齢者医療保険制度が国民的な議論となって、日本の医療制度の現実、とりわけ地域や診療分野による医師不足や医療専門家の人員数や収入の格差が大きくクローズアップされています。医療費不足という経済的観点から抑制されてきたのですが、一転、医師などの養成が再び拡大路線へ転換し始めています。医療人育成のカリキュラムの改革も急ピッチで進んでいます。これから、どんな変化が生まれるのでしょうか?

医学部定員を10年ぶりに増加へ


 政府は先ごろ(08年6月)、これまで採ってきた医学部の定員抑制策を撤回して、医学部の定員を増大することを閣議決定しました。膨らむ一方の医療費の高騰を抑えるために、1980年代後半から定員の抑制傾向が始まっていたわけですが、1997年には構造改革の一環として「医学部定員の削減」が明確に打ちだされ、削減が本格化してきました。
 実際、医学部の定員はピークだった1984年の約8,300人に比べると、07年度は約7,800人。ピーク時の約9割に抑制されてきました。しかし、地方や診療科目による医師不足格差も深刻化し、「医療崩壊」が現実のものとなり、今回の転換となったといえます。いささか、ドロナワの感が否めませんが、今後大学の受け入れ態勢を整備し500人程度増加させる予定だといいます。
 すでに、昨年度からすでに「緊急医師確保対策」が採られ、07年度に38大学で179人、08年度に26大学で122人の一時的な定員増加が進められています。国民の安心・健康生活を担う医療の中核である医師(マンパワー)が不足ではお話しにならないわけで、当然の帰結といえます。

医師を削減する不見識の是正


 医療系学部は人間の生命に直接携わるエキスパートを育成する目的学部であり、元々、フェイスtoフェイスが基本の職種です。そのうえ、社会の高齢化が進み、世の中の健康志向が年々に高まるつれ、マンパワーの質と量(頭数)が求められてきました。事実、医療系学部に在籍する学生数の推移を見ても、2003年の16万人から07年の21万人へと5年間で5万人以上増加しました。
 薬学や看護学系がそれぞれ約1万3000人の増加。保健学・栄養学・医療福祉・医療技術・リハビリ系などその他の医療分野が、03年に1.4万人だったものが2万人以上に増加しています。今日の医療はそれぞれに専門高度化しているために、各エキスパートが専門能力を分担し、組織の有無に関わらずチームとして「総合医療」を行なうのが常識です。
 その意味で、医師以外のメディカルスタッフを増大する一方、その中心・先導役を果たすべく医師づくりの分野を抑制してきたのは、今日の医療のトレンドから見ても著しくバランスを欠いたもの。経済万能主義に名を借りて、人間の生命や健康を保証することが何よりも優先すべきことだという基本=哲学を忘れた“不見識”だったといえます。

工学との連携強め、変貌する医療現場


 そうした医療現場で起こっていることで、注目されるのは医学と工学が一層関係を強めている点です。材料工学や機械工学と連携する人工臓器や皮膚・骨などの再生医療、電子工学や情報工学の画像解析やデータ処理技術と連動したMRIなどに代表される検査・診断機器の開発など枚挙にいとまがありません。
また、創薬、医療、食品、バイオ産業などへの広汎な応用を目的とした「バイオ・インフォマティックス(生命情報工学)」という新しい領域も登場しており、いまや医療は医学と工学の「折衷領域」といえるほどに接近しているのが実情です。
 そのため、医療系の資格でも、例えば、臨床工学技士の資格などは一部の工学部でも取得できるように変わってきました。研究においても、多くの大学で「生命科学研究」が最も盛んに行われているケースが大半で、医学と工学の連繋は今後ますます進展することは確実です。
 もう一つの注目点は、これまでの罹患者の治癒をめざしたケアを主力としてきた医療が、近年は健康な状態を維持するための「予防医学」を重要項目として教育が行われるようにシフトしつつあることです。そのため、医学領域以外からの医療界参入も目立って増えています。
 例えば、スポーツ健康科学などで運動を通じた疾病予防や健康づくりが研究されたり、栄養科学などの分野から食品の摂り方や環境の整備による健康の増進を図る方法が研究されたりしています。
 「予防医学」自体は決して新しいものではありませんが、いわゆる「健康」と「病気」の両者が同一線上にあるものという捉え方で、現代医療の最も新しい概念・考え方となりつつあります。
【文章 大学教育研究所】