持続可能な開発目標

2 飢餓をゼロに

飢餓をゼロに

2030年までに飢餓を終わらせ、すべての人々が安全で栄養のある食料を十分得られるようにします。農業生産を増やし、小規模農業の所得倍増、災害や環境変化に耐える農地改良を進め、生物多様性や資源を守ります。

3 すべての人に健康と福祉を

すべての人に健康と福祉を

出産時に死亡する女性の数を減らし、新生児や5歳未満の子どもの予防可能な死亡をなくします。伝染病や肝炎や水による感染症、薬物やアルコールの乱用を防ぎ、人々が安価で質の高い医療や薬を得られるようにします。

国際連合広報センター:持続可能な開発目標(SDGs)特集ページ

テーマ

“病”だけではない人と微生物の関係

研究テーマの1つに感染症があります。感染症と人類の歴史は古くて新しい。
人類が農業を始め、定住生活を開始したことによって、多くの感染症はヒト社会に持ち込まれました。密集した生活環境がそうした感染症を作り出したのです。ヒトや社会のあり方、環境などを人為的に改編したところに、新たな病原体が入り込んできたのです。エボラ出血熱も、森林伐採によって熱帯雨林のコウモリとヒトが接触したことでウイルスが広まったと言われています。
病原体である微生物も、その宿主であるヒトも生物であり、お互いに競争と協調の関係を持ちながら生きています。ヒトがその生活や環境を大きく変えると、その過程で新たな微生物がヒト社会に広がろうとし、結果として最適なものが生き残るのです。

ですから、感染症自体は抗生物質やワクチンで短期的に減らすことができても、長期的には、こうしたヒト社会のあり方を変えない限り感染症はなくなりません。あるいは、無くならないものなのかもしれないのです。というのも、私たちの身体の内や外にある無数の微生物をすべて消し去ることは不可能だからです。さらに言えば、ヒトに有益な微生物も数多くあり、病気との関係を考えていくときでさえ、“病原体とヒト”という二元論的な見方では、その本質の理解はできなくなっているのかもしれません。人類進化の歴史や社会などの広い視点も必要で、それがひいては、持続可能性ということとつながっていくことになると考えています。

なぜアフリカにエイズが蔓延したのか

感染症の研究に興味を持ったのは大学院生の時です。進学した研究室でヒト白血病ウイルスの研究を行っていました。そのウイルスは、エイズを引き起こすHIV(ヒト免疫不全ウイルス)と近いウイルスで、当時、猛威を振るい始めたHIVにも必然的に関心が移っていきました。そのHIVがアフリカで猛威を振るっていて、日本も政府開発援助(ODA)でアフリカに多大な援助をしていましたが、当時のエイズは治療法もなく、人材も足りないと知り、その分野の研究をしてみようと思ったのです。
実際にアフリカに行ってみると、HIVは医学の問題であると同時に社会の問題だと感じたのです。エイズは治療しなければ10年後には死に至る病気です。しかし、現地では治療どころか予防さえ進みません。最初は不思議でした。しかし、紛争や飢餓に苦しむ国々では、HIVがなくても10年先の命は分からない。そういう人たちにHIVの予防を説いても、まったく説得力がなかったのです。

感染症は、必ずヒトからヒトへと感染します。つまり、人のコミュニケーションと密接な関係があります。たとえば、人は多くの人と接触しているようでも実際にはかなり狭い世界でしか接触していないといったことや、でも、その広がりは、かつてとは比べ物にならないほど、グローバル化しているといったことが分かってきたのです。社会学のおもしろさにも気づいた瞬間です。そこから、コミュニティや政策といった分野に視野を広げていったのです。

地震後、公園でテント生活を送るハイチの人々

ネパール地震によって骨折した少女を治療する

200兆個の微生物と共生する人間という生態系

最近は、人間とその体内にいる微生物との関係性にも興味を持っています。
ヒトの体内には千種類以上、200兆個を超える微生物がいて、その数はヒトの細胞の数の十倍、遺伝子の数は数百倍にもなります。そして、人間という生物は、そうした微生物の巨大なネットワークのなかで形づくられ、それが精神や脳の働きにも影響を与えているということが徐々に分かってきたのです。

体内の微生物は、祖母、母、子どもと代々受け継がれてきたものです。赤ちゃんが産道を通るときに母親の持つ微生物に触れ、それが子どもの体内の共生微生物の元になります。
しかし、出産時の帝王切開や抗生物質の使用は、そうした過程を撹乱し何らかの影響を個体に与えるかもしれないということが分かってきました。たしかに、何万年もの進化の過程で選び取られた体内共生微生物には何らかの役割があるかもしれません。もちろん、帝王切開や抗生物質は多くの命を救う医療技術です。顕著な副作用も認められていません。ただ、その乱用はじわじわと体内微生物の生態系を壊すことで2世代、3世代後に何らかの不都合を引き起こすことになるかもしれないのです。

微生物は生物です。病気と考えれば撲滅しようという発想になりますが、それによって生物の多様性を失うと考えれば、彼らと共生しながら感染症を減らすことを目指すのが、持続可能な考え方だと思うのです。

医学の研究から飢餓の経済的リスクを明らかにする

医学が、それ自身で飢餓をなくすことはできません。また、飢餓そのものを減らすこともできないかもしれません。ただ、飢餓が次世代にどういう影響を与えるか、これまでの研究の蓄積から示すことはできます。
たとえば、幼児期の飢餓体験は、成人期以降の大きな疾病リスクになります。肥満や高血圧、糖尿病などになりやすいという研究結果があるのです。飢餓を放っておくと将来的な医療費の増大や人的損失をもたらす可能性が高いのです。飢餓をなくすことへの投資は、それ自体、人道的で必要なことですが、それに加えて、将来の経済的負荷を減らすことにもなると考えることができるかもしれないのです。

これまで、医療は社会には必要でも、直接利益を生まないものだと思われてきました。しかし、医療に対する投資が社会にとって効率的な投資だと分かれば、当局の意識も変わるかもしれません。SDGsの課題に対して医療ができる1つの手助けかもしれません。

母親の飢餓が子の健康に与える影響
第二次世界大戦末期、ナチスドイツによる食料遮断で飢餓に陥ったオランダの妊婦が産んだ子どもは
肥満や生活習慣病にかかるリスクが高いと証明された。

第2次世界大戦末期オランダの飢饉と成人後の肥満

(出典)ACJ・Ravelliほか The Lancet Vol.351 No.9097,1998より作成

サブサハラ・アフリカのエイズ孤児

(出典)David Barker,1998より改変

感染症をなくせば“健康でしあわせな世界”は来るか?

SDGsの目標は素晴らしいのですが、2030年という期限の設定は私たち医学研究から見ると少し短すぎます。そういう意味では、たとえばHIVや結核の感染をなくすという目標を踏まえつつ、その先の世界には何があるのだろうという意識が、今後、非常に大事になると考えています。感染症による死者をなくして、あるいは病気で亡くなる人の数を減らして、その後、どういう社会を作るのかということです。

もちろん、ひとつひとつの課題の解決は大切で、それをしなければ次のステップには上がれません。でも、次のステップで何が問題になってくるのかを常に意識することもまた、大事なのです。
たとえば、かつて植民地時代のアフリカの医療現場では梅毒の治療薬を注射で打っていましたが、注射器の数が足りないため何人もの患者に回し打ちをしていたことがあります。1人でも多くの人を治療しようとした善意の結果です。しかしそれが後に肝炎やHIVを広げることになりました。いま私たちはその対処に追われています。
似たようなことは、他にもあるかもしれません。その時には正しく善意からの行為であっても、その先に何かが起こらないという保障はありません。
感染症をすべてなくせば本当に“健康でしあわせな世界”になるのか。かえって脆弱な社会になりはしないか? 新たな問題は出てこないか? その問いに目をつむってはいけないのです。

SDGs実現の先、命を助けた先の世界を想像できる人に

SDGsによる持続可能な社会の実現には、若い人たちの力が必要です。しかし、目標の達成は簡単なことではないし、進むべき道も1本とは限りません。いくつかの利害が衝突するなかで、何が正しいか分からないまま道を選ばなければならないことがあるかもしれません。たとえば、医療にも財源は必要だし、国の予算をすべて国内の医療に使うわけにもいきません。だからこそ、医学だけでなく社会や歴史など視野を広く持って欲しいと思います。医療の現場は、途上国でも先進国でも、必ず社会のさまざまなこととつながっています。

目の前の治療だけに専念できるなら、医療は“人を助けるいい職業”です。でも、目の前の命を助けることで、そこにいない誰かの命をおろそかにしてはいないか。人を助けた先に何があるのか、そういうことも考えられる人になって欲しいと思います。
答えがないところで、モヤモヤした気持ちを抱えつつ、そこに線を引いて切り捨てたりせず、なんとか別の発想や視点で解決策を見つけようとする人であって欲しいと思います。「こんなものだよ」と自分のなかで線を引くのは簡単です。でもそれでは、真の解決の道にはならないのです。SDGsの取り組みも、同じ視点が必要なのではと感じています。

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山本 太郎 教授

長崎大学 熱帯医学研究所 環境医学部門 国際保健学分野

山本 太郎 教授

専門は国際保健学です。災害や紛争後の緊急医療支援の現場や途上国における感染症対策に従事した経験を活かし、研究所では保健医療問題における国際協力のあり方や感染症発生時の国際対応、環境疫学、生態学、進化生物学といった多様な視点から熱帯病の研究に取り組んでいます。
私自身の大きな研究テーマは「ヒトって何だろう」ということです。ヒトはどこから来て、いま何を行い、どこに向かおうとしているのか。ヒトというユニークな存在から導かれることを、医学や医療、国際協力と結びつけて考えていきたいと考えています。

推薦図書

『感染症と文明――共生への道』 山本太郎 (岩波新書)

『失われてゆく、我々の内なる細菌』 マーティン・J・ブレイザー (みすず書房)

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