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教師の仕事の魅力と教育系大学での学びとは?鳴門教育大学長が解説

2022.09.15

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教師の仕事の魅力と教育系大学での学びとは?鳴門教育大学長が解説
 
教師という仕事は、未来の社会を担う子供たちを育てる仕事です。変化の激しい時代に子供たちに対する教育を担う教師の役割は、ますます重要になっています。教師を目指す人を育てる教員養成大学では、どのような学びが受けられるのでしょうか?
国立大学で全国トップクラスの教員就職率を誇る鳴門教育大学(徳島県)の佐古秀一学長に、教師という仕事の魅力や教員養成大学での学びのほか、教師になりたいと考えている高校生の皆さんに向けてのメッセージなどを伺いました。

<プロフィール>
佐古秀一(さこ・ひでかず)

鳴門教育大学 佐古秀一学長


 
1953年生まれ。1982年、大阪大学大学院人間科学研究科行動学専攻後期課程単位取得退学。1988年より鳴門教育大学学校教育学部に講師として勤務して以来、教育学部教授、副学長などを歴任。2022年4月より鳴門教育大学第8代学長を務める。

教師という仕事の魅力と現状

――教師という仕事には、どのような魅力があるのでしょうか?

佐古:仕事で出会った、一人のベテラン女性教師と話をしたときのことです。
その教師は、とても荒れていた中学校で大変な経験をされた方でした。その後、教育センターという教師の研修施設に異動になったので、苦労をねぎらう意味で「教育センターに異動できて良かったですね」と声をかけました。

すると彼女は「それは違います」と。さらに、こう続けたんです。
「確かに苦労はたくさんしたけれど、生徒が成長して卒業式を迎えたとき、すべての苦労がひっくり返るんです。その感激は残念ながら、教育センターにはありません」
彼女の言葉に凝縮されているように、子供は日々成長して変わっていく。それを自分事のように実感できるのが、教師の仕事の魅力といえるでしょう。

もうひとつの魅力として、自分が教師の仕事の中で深く関わった子供たち一人ひとりが、次の社会を作り、社会を変えていくんですよね。だから教師は、「次の社会を作る人」を作る、とてもクリエイティブな仕事だと思っています。

――人を作る仕事のやりがいは大きいですよね。ただ、近年は「教師の仕事は、長時間労働が多くて大変そう」という声も聞かれますが…。

佐古:中央教育審議会(国の有識者会議)で「学校における働き方改革」がテーマとなったとき、私も特別委員の一人として、教師の長時間労働や専門性と無関係な仕事を減らそうと、議論に関わりました。今、文部科学省の施策を見ていると、それは十分ではありませんが、一定の効果を上げているように思います。

ただ、教師の仕事に対する一面的でネガティブなイメージが、大学生や高校生の皆さんに広まってしまったのは事実。教師の仕事の具体的な内容を、もっと知ってもらえるようにしなければならないし、もっと言えば教師の仕事でしか経験できないことや、仕事の社会的意味も伝えていかなければならない。それが、教師を育てる大学の使命だと考えています。

鳴門教育大学で学べること

鳴門教育大学授業風景(大講義室)

 
――鳴門教育大学とは、どのような大学なのでしょうか?

佐古:鳴門教育大学は、21世紀のグローバル社会を主体的に生きる人間を育て、文化の創造および国家・社会の発展に貢献する教員養成大学です。教育に関する高度な専門性と実践的指導力を身につけ、豊かな個性を持った教師を養成することをモットーとして、1981年に設立されました。

――文部科学省が発表した教員就職状況によれば、鳴門教育大学の2021年度の教員就職率は77.4%、就職率は98.1%(2021年9月末)で、さらに過去10年は全国ナンバーワンでした。そんな鳴門教育大学では、どのようなことを学べるのですか?

佐古:教員養成のカリキュラムは全国共通なので、大学単位であまり個性を出すことはできないのですが、鳴門教育大学は「教員のための新構想大学」として、学部の教員養成だけでなく、大学院にて現職教員を対象とした高度な教育や研究を行っています。

私は先程、「教師の実際の仕事を知ってもらうことが大事」と言いましたが、学部の授業だけでは教師の仕事の具体を実際に知る機会は、限られているように思います。
でも、鳴門教育大学では、学生の周りに経験豊かな教師たちが大学院生としてたくさん在籍していて、時にはいっしょに学んでいます。大学1年生から学校での実習も組み込まれているのも特徴です。こうして教師の実際の仕事を把握しながら、教師として必要な学びに取り組んでいくのは、手前味噌ですけれど、けっこうおもしろいと思いますよ。

――現職の教師と教師を目指す学生が入り交じる鳴門教育大学、とりわけ大学院の研究室は、学校の職員室のような雰囲気だそうですね。

佐古:時には「教師の仕事はそんな甘いものじゃないよ」とか、学生に言わないでほしい話をすることもあるようですけれど(苦笑)
学生にはそれも含めて見聞きして、自分は教師に本当になりたいのかを判断してくれれば良いのではと思います。
実は今、教員養成を根本的に見直そうと考えているんです。

――せっかく今のカリキュラムで、教員就職率が高いのに…ですか?

佐古:本学を卒業した学生は確かに「優秀な教師」として評価されていますし、だからこそ教員採用試験で合格する。しかし、この変化の激しい時代の学校で、教師はいろいろな経験を乗り切りながら、その経験を糧に生涯にわたって粘り強く成長していく必要があると考えています。

生涯にわたって自分を変えていけるようにするために、鳴門教育大学は「学部の4年間や大学院を含めた6年間で何を教えられるのか」を問い直しています。そこで、AIなど最新技術を活用して、教員養成をDX(デジタルトランスフォーメーション)させていく。2023年頃から、カリキュラムを少しずつ見直していく予定です。

――変化の激しい時代の子供たちを育てるために、まずは教師の在り方から変えていこうとしているのですね。

佐古:もうひとつ、これまでの教員養成は「望ましい教師像」が前提にあって、レーダーチャートを見ながら「あなたはこの要素が足りないので、もうちょっと伸ばしましょう」という、理想像に近づけていく指導をしていた。

――教師という人材の質としては、平均化できるかもしれません。

佐古:そうです。しかし、教師自身の個性がなくなってしまう。
だから、鳴門教育大学としては、例えば、授業はちょっと下手だけれど、子供たちと遊ぶのが大の得意な教師がいてもいいと思う。「子供と夢中で遊べる力」を強みや個性、持ち味だと自分でちゃんと気づいてもらって、それを伸ばす教員養成をしたいと考えています。

――最近の国の教育方針では、子供には「個別最適な学び」が必要で、そんな子供に対して教師は「個に応じた指導」をすることが求められています。子供の主体性や個性を大事にするなら、教師の個性も重視しないといけないと。

佐古:おっしゃるとおりです。教師ごとに強みや個性を活かし、互いに補完し合いながら、「チーム学校」としてこれからの教育現場でがんばっていけるようにしたいですね。

鳴門教育大学の学生と就職先

鳴門教育大学就職支援室で就職について話をする学生

 
――鳴門教育大学には、どんな人が進学してくるのでしょうか?

佐古:主に、東海地方より西のほうの学生が多いですね。関西圏が多い印象です。そして、学生のほとんどが教師になりたいという想いで入学してきます。

――ここ数年、教員採用試験は全国的に競争倍率が下がっているため、受かりやすくなっているところもあるでしょう。求められている人材の「質」はいかがですか?

佐古:少なくとも、徳島県内の学校の校長先生や教育長の方にヒアリングする限りですが、鳴門教育大学出身の教師は「授業力が高い」と高評価をいただいています。これまでの鳴門教育大学のカリキュラムは授業力重視でしたので、それが定着しているのではないでしょうか。

近年は学年が上がるにつれて、教師以外への就職を考える人の割合が少し上がっているのは若干憂慮すべきところではありますが。教師以外では、地元の公務員を目指す人が多いですね。

――大学で教育学を学ぶことには、どんなアドバンテージがあるのでしょうか?

佐古:とある地方銀行の役員との雑談での中で、「うちの銀行で、もっと鳴門教育大学の学生を採用したい」と言われたことがあります。詳しく聞くと、これまでは「教員養成大学の学生は銀行に関係がない」と思っていたらしく、銀行員は経営学部や経済学部から採用していたそうです。

しかし、鳴門教育大学の学生を何人か採用したら、とてもプレゼンテーションがうまくて、「これは良い!」となったそうです。そりゃあそうですよね、子供にわかるように何度も何度も授業の練習をしているのですから。鳴門教育大学の学生のプレゼン力はとても高いですよ(笑)

――仮に教師にならなくても、社会に期待され、社会に貢献する人材を生み出しているんですね。

佐古:そうですね。考えてみれば教員養成大学・学部というのは、文系・理系を融合したような学びをしているし、教養も身につく。さらに、プレゼン力も身につく。総合的な人間力を育てるという点で、教員養成大学・学部に進学する意味は大いにあると思っています。
もっとも「教師を育てる」という明確な目的を持った大学なので、できるだけ教師になってほしいところですけれど(笑)

教師を目指す高校1、2年生へ伝えたいこと

鳴門教育大学学内風景_会話する学生たち

 
――これを読む高校生の皆さんには、教師を目指す人もいると思います。一言、メッセージをお願いします。

佐古:繰り返しになりますが、教員養成大学・学部では、幅広くいろいろなことが勉強できます。その中で、得意なことをあらためて見つけようという人に向いていると思います。
それと、私は「自分がやりたいことにしっかり取り組んできた人」にこそ、鳴門教育大学で学んでほしいと伝えたいですね。

――その心は?

佐古:部活でもボランティアでもアルバイトでも、何でもいいんです。好きなことに専念して、社会とのいろいろな接点を高校生のうちに持ってほしい。その上で、しっかり考えて「自分はこんなことができそうだ」と実感できれば、鳴門教育大学に来て良い学びを得て、良い教師になれると思う。
先程も言いましたが、私たちはそういう個性を伸ばして、自分と子供の個性を大事にできる教師を育てていきたいんです。
「あなたのそういう良いところは、きっと子供たちに喜ばれるよ」と伝えたい。

――「勉強を人に教えられるぐらい勉強が得意でなければ、教師にはなれない」というイメージを持っている人は多いと思います。もちろん勉強は大事ですが、勉強ができることよりも大切なことがあると。

佐古:「目の前の子供に何をしてあげれば良いのか?」という問いに対して、正解など誰にもわからないんですよ。教育書や論文に書いてあるような、ためになる知識や役に立つ方法はたくさんありますが、それにあてはめれば、必ずうまくいくなんてことはありません。学校の先生はみんな手探りで、日々、子供に接しているんです。

人間は、自分の話をよく聞いてくれて、自分のことをわかろうとしてくれる人がいるだけで、救われますよね。何か苦手なことがある子は特にそうで、ずっと自分のことを考えてくれる存在があるというのは、大きな意味を持っています。
だから、人と関わるのが好きで「この子に何かできることはないのだろうか?」と粘り強く考えられる、そんな探究心を持ち続けられる人は、教師に向いていると思いますよ。

――鳴門から発信される、新しい教員養成のカタチに期待しています。貴重なお話をありがとうございました。

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