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北里大学による救命救急における看護師の貢献とエビデンスの創出の講演

2025.06.24

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2025年5月24日、土曜日。有楽町の東京交通会館12階ダイヤモンドホールにて、医療系学部・大学セミナー&進学ガイダンスが開催されました。

将来医療に携わりたいと考えている高校生を中心とした、大学進学相談会です。個別に大学と相談をすることができるイベントですが、大学進学に役立つ講演会も実施しています。講演会のひとつ『救命救急における看護師の貢献とエビデンスの創出』のレポートをいたします。

実際には資料やスライド、映像を活用してわかりやすくなっておりますし、この記事には記載していない内容もあります。興味のある方は、機会があれば講演会に参加してみてください。

はじめに

プロジェクターに映し出された資料

15時から北里大学講師の椿 美智博 先生による『救命救急における看護師の貢献とエビデンスの創出』の講演がスタートしました。

椿先生:今回の講演のテーマは大きく2つあります。いわゆる病院のような臨床で活躍する看護師の役割。もうひとつは大学で看護学を学問として学ぶことの意義です。

救命救急医療について

椿先生:はじめに救急医療について説明します。救急医療は3つに分類されています。一次救急医療施設(初期救急医療施設)、二次救急医療施設、三次救急医療施設(救命救急医療)です。みなさんが想像する医療ドラマに登場する現場の多くは三次救急医療施設です。要するに重篤者が集まる現場というイメージです。北里大学の隣には北里大学病院があり、私も大学教員になる前はそこの救命救急・災害医療センターで勤務していました。

災害医療について

椿先生:次に災害医療について説明します。災害医療が普段の医療と異なる点は、医療資源が限られるということです。傷病者を集団としてとらえ、最大限の救命を目標とするのが特徴となります。よって、みなさんがドラマでみるようなトリアージ等が必要になります。

普段の医療であれば一人ひとりの患者さん個人の救命に全力を注ぐことになりますが、災害医療ではそれをすることで救える命が救えなくなってしまうことがあります。そうならないために、どのような優先順位で治療していくのかを、トリアージを用いて判断していきます。

また、災害医療の大きな特徴として、多職種と連携をすることが挙げられます。例えば2016年の熊本地震の際には、自衛隊、DMAT(災害医療派遣チーム)、現地の医療スタッフ、行政(県や市町村)などが含まれます。多くの人が連携する際に重要となるのが情報共有です。この写真では、ホワイトボードなどを使って、情報を収集・発信しています。

局所災害について

講演を聞く参加者のみなさま

※ここで災害現場の映像が上映されました

超急性期の災害医療について

椿先生:具体的な災害医療の症例として、建設現場火災事故を例に上げます。紹介した映像のなかでは、「喉の奥の重いやけど」が取り上げられましたが、専門用語では気道損傷と呼びます。熱傷を含む、外傷初期診療では、気道の異常は最優先で治療しなければなりません。空気の通り道である気道にやけどをすると、浮腫むことにより気道が狭くなることで呼吸できなくなってしまうことが理由です。そのため、挿管チューブと呼ばれる管を挿入して喉がむくんでも空気の通り道を確保する治療が選択されることがあります。このような内容は看護師の国家試験でも出題されたことがあります。このような映像を通して、治療選択の背景を理解することで、看護師として必要な知識を得ることにつながります。

看護を大学で学ぶ意義について

公演中の椿先生

椿先生:看護師になるための道は大学や短期大学、専門学校など、幅広く広がっています。高校生の皆さんは多くの選択肢から迷うこともあるかと思います。今は看護師になることがゴールにみえるかもしれませんが、実は看護の道に進んでからの方がキャリアを選択する機会は増えていきます。その選択肢の基盤となるのが、高校卒業後の選択になってきます。そこで、残りの時間は大学で看護学を学ぶ意義についてお伝えします。

現場の経験から得たこと

椿先生:私のキャリアになりますが、大学を卒業後、北里大学病院の救命救急・災害医療センターで看護師として働き始めました。そこで、救急の現場では、重症患者が多く搬送されることから、たくさんのなくなる命があることを経験しました。大切な人を亡くした遺族の悲しみをみると、看護師である自分にできることはないかと考えるようになりました。

遺族にとってつらい経験の中で、せめてその日の出来事に後悔が残らないように、説明をしたり、サポートをするエンドオブライフケアにも力を入れるようになりました。しかし、救急領域のエンドオブライフケアは診療報酬の対象外であるため、これらの大切な取り組みが病院の収益につながることはありません。これを理解したときに、医療制度は完全ではなく、アップデートされるべきものであると知ることができました。より良い看護を行うためには、個人の努力だけではなく、時には制度を変える行動が必要になることがあります。

コロナ禍での看護師の待遇改善活動

椿先生:制度を変えるには二つの行動が必要でした。一つは研究でエビデンスをつくること。もう一つは政策へのアプローチです。

そこで私は大学院に入り、科学的なエビデンスを構築するための研究手法を学びます。同時に政策についても勉強しました。そんななかで発生したのがコロナでした。医療の現場はとても混乱していました。こんな状況で看護はやっていけないのではないか。せめて待遇から改善すべきではないか。そのように感じたとき、制度を変えるために学んできたことを活かして自分に貢献できることを考えました。

そこで、コロナ禍における看護師のメンタルヘルスを調査しました。この結果、当時の看護師は抑うつ症状39.1%、不安神経症23.4%、PTSD(心的外傷後ストレス障害)36.5%と極めて異常な状態であることが分かりました。この調査を論文にまとめて、エビデンスを持って神奈川県知事や国会議員に働きかけをしました。

それにより、このデータをもとにして石田まさひろ参議院議員が厚生労働委員会で発言し、医療職俸給表(三)改正と看護職処遇改善評価料新設に繋がりました。これによって、全国の看護師の月額給与が一万二千円増加しています。

大学で看護を学ぶ意味

このような看護の課題を解決する力。これが大学で看護を学ぶ意味だと考えています。看護の現場は決して完璧ではない。看護を学問として学ぶことで、社会を変える力になることがあります。大学での学びを活かして、医療の現場をより良くし、看護の世界をリードする人材が一人でも多く育ってもらえると嬉しいです。

以上、医療系学部・大学セミナー&進学ガイダンスの講演会レポートでした。進学EXPOでは、大学受験を検討するみなさんにとって有意義な講演会を実施しています。機会があれば、ぜひ参加してみてくださいね。

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