明治薬科大学によるDX時代における薬局薬剤師の役割の創出の講演
2025.06.23

2025年5月24日、土曜日。有楽町の東京交通会館12階ダイヤモンドホールにて、医療系学部・大学セミナー&進学ガイダンスが開催されました。
将来医療に携わりたいと考えている高校生を中心とした、大学進学相談会です。個別に大学と相談をすることができるイベントですが、大学進学に役立つ講演会も実施しています。講演会のひとつ『DX時代における薬局薬剤師の役割』のレポートをいたします。
実際には資料やスライド、映像を活用してわかりやすくなっておりますし、この記事には記載していない内容もあります。興味のある方は、機会があれば講演会に参加してみてください。
目次
はじめに

14時から臨床漢方研究室 島根涼先生による『DX時代における薬局薬剤師の役割』の講演がスタートしました。
薬剤師の現状
島根先生:現在日本で薬剤師の国家資格を取得しているのは約32万人です。薬剤師は女性の方が多くてそのうち約20万人が女性となっています。約32万人のうち約6万人が病院、19万人くらいが薬局で働いています。他にも市役所や保健所で勤務される方もいますし、私の妻も薬剤師なのですが妻のように薬品開発に携わっている人もいます。
薬局の数はコンビニより多いと言われていますが、日本のコンビニが約5万5千に対して、薬局は約6万3千軒です。計算上、1つの薬局に対して3人ほど勤務していることになります。大きな病院では薬剤師が110人在籍することもありますが、薬局は多くても2,30人というところでしょう。
平成に入ってから、薬局薬剤師は増加し続けています。理由は処方箋が増加しているからです。処方箋に比例して、薬局が増え、薬局薬剤師が増えています。処方箋が今後5年間増えると予想されているため、その間に薬局薬剤師は増え続けると予測されています。その後横ばいになり、15年後からは減っていくとされています。
では薬剤師はいらなくなるのか、というとそんなことはなく、薬剤師の9万人以上が50歳を超えているので、その頃には定年を迎えていきます。どこの業界もそうですが、薬剤師も人材不足になっていくことが予想されます。
薬局の変遷
プロジェクターに薬局にとって重要な出来事が起きた西暦についての資料が映し出されました。薬局の変遷についての説明が始まります。
島根先生:まず1956年に医薬分業法が施行されます。みなさんも疑問に思ったことはないでしょうか。クリニックで受診したらそのまま薬がもらえれば楽なのにと。それなのになぜ医薬分業法ができたのかというと、理由は二点です。ひとつは薬剤師が介入しなかったために発生した薬害、副作用です。これを薬局で薬剤師のチェックをすることで防ぐようにしたわけですね。もうひとつは、あくまで一部の病院と診療所の話なのですが、過剰な薬の処方を行って利益を得ようとする悪い医師の行いを防ぐ目的がありました。
とはいえ、その時点ですぐに禁止してしまうと薬局も薬剤師も足りないので、国も徐々に促進してきた経緯があります。
2006年に薬学教育6年制がスタートします。私自身、当時高校生だったのでショックでした。4年制のつもりでしたので、正直迷いました。なぜ6年制がスタートしたかと言うと、年々医療が高度化しているわけで、薬の種類も増え続けていまや1万7千種類あります。これではもはや4年では学習しきれないということで変更されました。
2015年には、かかりつけ薬局・薬剤師の制度が開始されます。かかりつけ医はみなさんもいると思いますが、かかりつけ薬局とは処方箋がなくても相談できる存在のことです。従来はクリニックの近くにある薬局にすぐ処方箋を持って行くというのが通常でしたが、今後はどこで処方箋をもらってもかかりつけ薬局に持って行く。そういう世の中になっていくとされています。
2019年には調剤補助が登場しました。棚から錠剤を取り出す、軟膏剤・テープ剤を取りそろえるというような簡単な作業は薬剤師でなくても実施できるようになりました。
2020年の調剤後のフォローアップの義務化とは、薬を渡すまでが薬剤師の仕事とされていましたが、渡した薬を飲み終わるまで責任を負うということです。現在はちゃんと服用されているか確認する義務があります。
2022年にリフィル処方箋がスタートします。これは1回の処方箋で3回まで薬を渡すことができます。2回目、3回目は医師の受診無しで、薬剤師の判断で再度薬を渡していいか判断するというものです。薬剤師が必要と感じたら、調剤せずに患者さんに診察をしてもらうようにお願いをします。
2023年、電子処方箋が運用開始します。これまで紙媒体のみでしたが、電子媒体となりました。メリットは紙を無くしてしまう一部の患者さんへの対応と、処方箋をコピーしてしまう人への対応です。実際に睡眠薬をカラーコピーして複数の薬局に持っていってしまう人などがいたのですが、そういった問題に対応できるようになりました。
薬局薬剤師のこれから
島根先生:今までの薬剤師は、処方箋を受け取って、調剤して、報酬を算定して、在庫を管理するというような薬中心の業務でした。今後は調剤補助の方にお願いできるものは依頼してしまって、もっと患者さん中心の業務をするようになっていきます。
処方内容のチェック、医師への疑義照会、服薬指導、そして在宅訪問ですね。後期高齢者社会で在宅医療が増えていきますが、訪問できる薬剤師が足りていないのが実情です。なので、こういった患者さん中心の業務にシフトしていくというのが国の方針となっています。
薬局薬剤師の仕事内容

島根先生:ここからは薬局薬剤師が具体的にどういうことをしているのか、ご紹介していきます。まずクリニックなどで処方された処方箋を受け取って、監査をします。この処方箋監査というのがとても重要です。
処方箋監査
島根先生:本人確認、年齢、体重などの確認をすることです。薬は体重換算や年齢換算が多いので、正しい記載なのか確認します。特に小児は注意が必要です。処方箋に不備があれば、クリニックに確認する、電子カルテを確認する、本人から服用中の薬などのことをヒアリングする。疑義があれば疑義照会をして処方変更を提案する。というのが処方箋監査の仕事です。
処方箋監査漏れの事例
島根先生:数年前の事例ですが、アザニン(アザチオプリン)を服用中の男性に対し、禁忌薬であるフェブリクが処方され健康被害が生じたとして、被害男性が医師と薬剤師に慰謝料など約1110万円をもとめて東京地裁に提訴したというのが実際にあります。こういった健康被害を起こさないために、薬剤師による監査というのは必要です。監査が終わったら調剤を行います。
調剤
調剤作業にもいくつか方法があるため、掲載された資料から一つひとつ解説されました。
島根先生:調剤で一番わかりやすいのはピッキングですね。処方棚から必要な薬剤の数を取る作業です。
一包化というのもあります。一包化というのは、高齢者など多くの薬を飲む方に、一回で飲む分をまとめて用意することを指します。分包機を使って1回分の薬をまとめることができるので、これを使用して一包化を行います。
散剤の分包、水剤の調整は小児科に多い業務になります。最近ではパソコンで処方箋を読み込んで、スタートボタンを押せば自動的に用意される最新機器も存在しています。
あとは軟膏の混合です。軟膏ボトルに薬を数種類入れ、軟膏を練る機械にセットすると混合してくれます。機械で混ざりにくいものは、手で混ぜる場合もあります。
無菌調剤は、電話ボックスのような無菌室での作業になります。おもに自宅療養する患者さんが使用する輸液や栄養剤を調剤する際に使用します。
在宅訪問
島根先生:在宅訪問は通院が困難な患者さんのご自宅へ出向き、薬のセットと服薬指導、薬の管理のお手伝いを行うことです。カレンダーのような管理が容易なものに、薬をセットします。
高齢者施設への配薬
島根先生:高齢者施設への配薬業務も行います。老人ホームなどの施設に医師とともに訪問します。必要に応じて処方を提案して、処方箋がでたら調剤して、与薬カートに薬をセットしてくることが多いかと思います。
OTC医薬品の販売
島根先生:OTC医薬品というのは、一般用医薬品のことです。OTCとは英語の「Over The Counter:オーバー・ザ・カウンター」の略で、カウンター越しにお薬を販売するかたちに由来しています。一般用医薬品を販売する際には、消費者の求めに応じて、その症状に合った薬を探すことはもちろん、症状の度合いによっては「診療所に行った方がよいかもしれません」と受診を勧める場合もあります。
学校薬剤師
島根先生:学校薬剤師は学校における衛生環境の維持管理に関する指導と助言を行う仕事です。学校保健計画及び学校安全計画の立案に参与する……具体的にどういうことかというと、給食で使用した食器に洗い残しがないかとか、プールの水質は大丈夫かなど授業が行われている環境に問題がないか確認します。授業中に白衣で空気のチェックをしているのを見たことがある人もいるかもしれませんね。
薬物乱用防止活動
島根先生:薬物乱用防止活動も仕事のひとつです。学校薬剤師として薬物乱用防止教室等で小中学生を対象に行うこともありますし、薬剤師会として駅前などで薬物乱用防止に関する情報発信を行ったり、薬局が健康増進イベントの一環として地域住民に対して行ったりします。
健康相談
島根先生:治療の前段階から活用される薬局を健康サポート薬局と呼びます。薬や健康に関する相談を行えるよう一定の基準を満たす必要があります。
地域連携薬局は、患者の入退院時の医療機関との情報連携や在宅医療等に地域の薬局と連携しながら、一元的・継続的に対応できる薬局のことです。
専門医療機関連携薬局は、がん等の専門的な薬学管理に関係機関と連携して対応できる薬局です。がんの薬は本当に目まぐるしく進化していて、かなり専門性が高いです。普通の薬局だとかなり対応が難しいものを対応することができます。
医療費の削減
島根先生:薬局には医療材料衛生材料の供給という役割もありまして、これは医療法に基づく医療提供施設として、調剤を中心とした医薬品や医療・衛生材料等……つまり消毒液やマスクといったものを提供する拠点としての役割も果たします。
そして、後発医薬品の使用促進や残薬の解消といった社会保障費の適正化にかかる観点での積極的な関与も求められています……どういうことかというと、国の調剤医療費を減らす努力をしてほしいと、薬局薬剤師は国から言われているわけです。
薬局薬剤師の勤務例

島根先生:あくまで一例ですが、薬局薬剤師の一日をご紹介します。朝9時にオープンして、最初はそんなに来客もないので掃除とか機械の立ち上げなどをして準備します。徐々に患者さんがやってきて、お昼くらいまで外来処方箋の受付をして、お昼休みです。昼休憩が終わってもまだ来客は少ないので、この間に在宅訪問に行くことが多いです。その後また外来処方箋の受付をして、夕方に薬歴記録をして19時頃に営業終了というのが一般的かと思います。
一週間のスケジュールだと、平日の一日(水曜日とか木曜日)と日曜日がお休みで、平日が9時間、土曜日が4時間で、週40時間となります。薬局は土曜日が一番忙しいので、土曜日休みというのは薬局薬剤師にはかなり難しいと思います。
薬局におけるDXとは
島根先生:まず、オンライン薬剤情報や健康診断情報の取得により服用中の薬や健康診断の検査値等が薬局で閲覧できるようになっています。
昔はパソコンに手入力しなければならなかった薬歴も、いまはコピーアンドペーストが可能になっています。合理化された分、対人業務に時間をさけるようになります。そして、マイナ保険証と結びつけることで紙媒体の処方箋ではなく電子化された処方箋を発行できるようになりました。
DXによる薬剤師の責任
島根先生:例えば従来は処方箋だけ持ってきて、おくすり手帳を忘れていたら、何もわからないわけです。ところが先程説明したとおりすべて情報は手に入るようになったわけですから、知らなかったという言い訳はできなくなったと言えるでしょう。
DX化により、薬の適正使用においてのチェック項目が出そろっている状態なので、薬剤師としての責任はより重大になるというわけです。
求められる薬剤師像
島根先生:4点あげています。
1.察知する能力・予測する能力
例えば高齢者の方で、最近モノが飲み込みにくくなっているとおっしゃっているのに大きなカプセルが処方されている。この薬はこの人はうまく飲めないのではないか。粉にしてもらったほうがいいのではないか。そういうことが予測できる能力です。
2.冷静
薬局が混雑することは多々ありますが、混乱してしまったり冷静でいなくなったりしてミスをするわけには決してならない職業です。
3.ポリファーマシーの問題解決能力
これは例えば、この薬とこの薬は相性が悪いとか、この薬とこの薬はほぼ同じだから数量減らせるのではないか、というような問題を解決する能力です。
4.寄り添う心
4が一番大事です。1から3は大学や仕事をしていく中で身につけられるからです。
寄り添う心とは、目の前の患者さんが自分の家族だったらどうしてあげられるだろうかと考えられる心のことです。
さいごに
島根先生:薬局薬剤師は患者さんが薬を手にするまでの最後のストッパーです。
最後の砦として職能を発揮するために薬剤師を目指してみませんか?
――大きな拍手で講演会は終了しました。
以上、医療系学部・大学セミナー&進学ガイダンスの講演会レポートでした。進学EXPOでは、大学受験を検討するみなさんにとって有意義な講演会を実施しています。機会があれば、ぜひ参加してみてくださいね。