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酪農とは?畜産との違いや仕事内容、酪農家になるための大学や学部学科について解説

2023.09.26

カテゴリー:
牧場を歩く女性酪農家

酪農家の主な仕事は、牛の乳を搾ったり、生乳の出荷や乳製品の生産・販売を行ったりすることです。

また酪農家は搾乳や牛へのエサやりだけでなく、エサづくりや牛の繁殖・出産の手助けも行っています。

愛情を持って牛の世話をし、手間をかけるほど成果が得られやすいところが特徴です。

この記事では酪農家の仕事内容や、畜産技術者との違い、1日のスケジュール例をご紹介します。

酪農家に求められる資質や能力、持っておくと便利な資格も解説するので、目指す方はぜひ参考にしてください。

酪農とは?

酪農は牛を飼育して乳を搾り、生乳の出荷や乳製品を生産する農業のことです。
酪農の仕事をする企業へ就職したり牧場へ就職したりして、搾乳やエサやり、牛舎の清掃、牛の繁殖などの仕事をする人を酪農家といいます。
愛情を持って牛の世話をして手間をかけるほど、おいしい生乳や乳製品ができるため成果が得られやすいのが特徴です。

畜産と酪農と牧畜の違い

畜産とは牛や豚、鶏などの家畜を育てて、乳や肉、卵などを生産することで日本の食を支える産業です。
肉を生産する場合は、食用の肉だけでなく骨や毛皮なども処理され、出汁や鞄の素材として使用されます。

酪農とは畜産のうちのひとつの種類で、主に牛を飼育して乳を搾ったり、乳製品を作ったりする農業です。
畜産の中でも、生乳や乳製品の生産に特化した農業を酪農と呼んでいます。

牧畜とは牛や馬、羊などの家畜を育て、繁殖させる仕事のことです。
競走馬を育てる、人や荷物を運ぶために家畜を育てるなどの行為が牧畜にあたります。

酪農を含む畜産は家畜から乳や肉、卵を得て利用するのが目的ですが、牧畜は家畜をふやすのが目的です。

数字で見る酪農の現状

農林水産省によると、令和5年度の国内の乳用牛の飼養戸数は、1万2,600戸、飼育頭数は135万6,000頭、一戸あたりの飼養頭数は68頭となっています。
飼育戸数は年率3~5%の割合で減少しており、飼育戸数も令和4年度から1.1%減少しています。

酪農は、人手も乳用牛も不足しているのが現状です。こうした問題を解決するため、近年では、ICT(情報通信技術)の活用が進んでいます。

ICT(情報通信技術)を活用した最新の酪農事情

酪農の後継者不足の原因のひとつに、重労働であることが挙げられます。

たとえば、一頭の牛につき朝と夕方の2回の搾乳が必要であったり、約9kgもの搾乳機を移動させたりなどです。労働負担を軽減するため、搾乳ロボットや搾乳ユニットの自動搬送装置の導入などが進んでいます。

また、乳用の後継牛確保のためには、効率よく牛を交配させたり、分娩時の事故を防いだりといった対策が重要です。そのためには、毎日一定時間の牛の監視や分娩が近い牛は事故がないよう24時間体制での見守りが必要でした。
近年では、発情発見装置や分娩監視装置などを活用し、効率の良い交配、安全な分娩が実施されつつあります。

ICTの活用により、人手不足の原因となっている酪農の労働負担が軽減され、後継牛の確保にもつながっています。

参考:畜産・酪農をめぐる情勢|農林水産省 畜産局(令和512月)

酪農家の仕事内容

牛に餌をやる酪農家

酪農家の具体的な仕事内容を、以下の項目に分けて解説します。

  • 酪農家の1日の仕事の流れ
  • 酪農家のその他の仕事

酪農家の1日の仕事の流れ

酪農家の1日の仕事の流れは、以下のとおりです。

5:00搾乳、エサやり
730休憩
9:00牛舎の掃除
11:00休憩
13:00健康チェックエサづくり堆肥生産
16:00搾乳エサやり牛舎の清掃
19:00作業終了

搾乳とは牛の乳を搾る作業で、毎日朝と夕方の2回行います。

牛舎の掃除では、牛の寝床に敷いているわらを交換します。わらを入れ替えて清潔にすることで、牛の睡眠の質が高まり、生乳の質がよくなったり搾乳量が増えたりします。

また集めた糞を処理して牛のエサとなる牧草やトウモロコシ、小麦を作るための堆肥を作ることもあります。

自分たちで栽培した牧草やトウモロコシなどのエサを、毎日牛にあげる必要があります。
ちなみに牛が1日に食べる牧草の量は15kgほど。

栄養素に応じて牧草やトウモロコシなどの配分を変える必要があるため、エサの調合も行っています。
さらにエサを与える順番や、牛の体調などいくつかの要素を組み合わせて、適切にエサをあげているのです。

また子牛には45℃くらいに温めた生乳を飲ませています。

牛の体調管理も毎日行います。
搾乳やエサやりのときなどに、牛に変わった様子がないか観察します。

食欲が低下している、鼻が乾燥しているなどの症状があれば発熱の可能性があるため、体温をはかることも。
牛の体温を測定するには、温度計を直腸に挿入する必要があります。
牛は38.0~39.5℃、子牛は38.5~39.5℃くらいが正常の体温です。

体調が悪い、ケガをしているなどの症状が見られれば、獣医師と協力して対処にあたります。

酪農家のその他の仕事

酪農家は毎日の仕事以外にも、時期によって以下のような仕事があります。

  • 牛の繁殖と出産の手助け
  • 体調の悪い牛の看病
  • 牛の出荷
  • 乳製品の生産・販売

牛は通常妊娠や出産をした年でないと乳が出ないため、生乳を得るには妊娠や出産をさせる必要があります。
自然に妊娠することもありますが、人工授精を行う農場が多いです。資格を持つ酪農家であれば、自分で人工授精を行えます。また、出産の立ち合いも酪農家の仕事です。出産は深夜になることもあります。酪農家は、体調の悪い牛がいれば看病も行います。出産や健康管理のため、深夜も仕事になることがあると知っておきましょう。 また、肉用として牛を出荷・売却したり、チーズやヨーグルト、アイスクリームなどの乳製品の加工や販売を行ったりしています。

酪農家の仕事のやりがい

健康な牛の乳搾り

酪農家のやりがいは愛情を持って牛の世話をし、手間をかけるほど成果が得られやすくなるところです。

牛が病気を患っていたり、ストレスがかかっていたりすると搾乳量が減る、生乳の質が下がるといったことになりかねません。
しかし愛情を持って牛と接することでストレスが減ると、搾乳量が増え、生乳の質が上がることがあります。
また注意して牛を観察することで、病気を早く発見できるかもしれません。

搾乳量が増えたり、生乳の質が高まったりすると、農場の売り上げに貢献できて達成感を得られます。
愛情を持って手間をかけると、牛が応えてくれるため喜びや嬉しさも感じられるでしょう。

酪農家の仕事の流れ

酪農家の1日のスケジュール例をご紹介します。

5:00搾乳、エサやり
7:30休憩
9:00牛舎の清掃
11:00休憩
13:00健康チェック、エサづくり、堆肥生産
16:00搾乳、エサやり、牛舎の清掃
19:00作業終了

農場によっては、2交替のシフト制をとることもあります。
昼間は自由な時間がありますが、搾乳やエサやりを毎日行うため休日をとるのが難しいです。
また深夜でも出産の立ち会いや、体調の悪い牛の看病を行うこともあります。

酪農家の年収

厚生労働省の調査によると、平均年収360.7万円と記載されています。
年収は農場の大きさや育てる牛の数によって異なり、また自分で農場を経営しているのか、農場に雇われているのかでも年収が異なるでしょう。

酪農家に必要な資質と能力

酪農家として働くには、どのようなスキルが必要になるのでしょうか。
酪農家に必要な資質や能力を解説します。

牛の世話が好きで体力がある

酪農家になるには、牛の世話が好きであることが必須です。

牛の世話をする上でにおいが気になったり、糞を片づけたりと苦労することもあるかもしれません。
牛の世話が好き、牛のために働きたいという方が、酪農家に向いているでしょう。

またエサやりや、寝床のわらの入れ替えなど、体力を使う仕事もあります。
体力に自信がある、体を動かすのが好きといった方のほうがよいでしょう。

観察力がある

酪農家には体調の悪い牛を見つけたり、発情や妊娠の気配を見極めたりする観察力が必要になります。
牛が快適に過ごせるように牛舎が汚くないか、暑くないかといったストレスの原因を探すのも大切です。

同じ時間に同じ作業を行える

酪農家の仕事は搾乳やエサやりなど、毎日決められた時間に同じ作業を行う必要があります。
時間にルーズな人や飽き性の人には、向かない職業かもしれません。

酪農家になるための方法とは?

酪農家になるには、どのような方法をとるとよいのでしょうか?
酪農家の状況や、目指せる進学先をご紹介します。

酪農家の世界の現状

日本では、オーストラリアやニュージーランドといった国から乳製品を輸入しています。
今後、輸入に頼らずに国内の生乳生産量を増やしていこう!という動きがある可能性もあるため、酪農家の需要は今後も高まっていくでしょう。

酪農家になるための勉強ができる大学・学部

酪農家を目指すなら農学系や畜産系を学べる大学や、農業大学校などへ進学するとよいでしょう。
酪農家になるためにオススメの大学は、以下のとおりです。

・酪農学園大学(北海道):農食環境学群 循環農学類-酪農学コース、畜産学コース
・宮崎県立農業大学校(宮崎県):畜産学科-酪農専攻
・東京農業大学(神奈川県、北海道):農学部-動物科学科、生物産業学部-北方圏農学科
・帯広畜産大学(北海道):畜産学部

酪農学園大学の酪農学コースでは、実習を通じて酪農の現場をより理解できます。

酪農家に便利な資格

酪農場にあるトラクター

酪農家になるのに必要な資格はありませんが、なる上で便利な資格があります。

自動車運転免許

自分で牧草を育てる酪農家は農業用の車両を使用するため、普通免許の他に以下の自動車運転免許を持っておくと便利です。
・大型特殊自動車免許
・牽引免許

大型特殊免許で運転できるのはトラクターやコンバインといった農耕車、ショベルカーや除雪車などの工事や路面整備を行う車両です。
免許の中には農業用の車両のみ運転できる大型特殊免許(農耕車限定)もあるため、酪農家は農耕車限定の免許でもよいでしょう。
ただし大型特殊免許は車両を公道で走らせるための免許で、目的の作業を行うには別に作業免許の取得が必要になるため注意してください。

大型・中型・準中型・普通・大型特殊自動車の中で、車両総重量が750kgを超える車を引っ張って公道を走る場合は、牽引免許がいります。
複数の農地を持つ酪農家は、トレーラーやコンバインを引っ張って他の場所に移動させることもあるため、牽引免許を持っておくと便利です。
大型・中型・準中型・普通・大型特殊免許のいずれかの免許を持っていないと、牽引免許を取得できないため大型特殊免許と合わせて取っておくとよいでしょう。

ただし大型特殊自動車免許と牽引免許を取得していても、普通自動車の運転はできないため注意してください。

家畜人工授精師

家畜人工授精師とは、家畜の人工授精や受精卵の移植を行える人のことです。
家畜人工授精師になるには講習会を受講し、修業試験に合格しなければなりません。
講習会は都道府県か、農林水産大臣が指定した者によって開催されます。
牛の繁殖・出産も酪農家の仕事のひとつなので、取得しておくのがオススメです。

日本農業技術検定

日本農業技術検定は「日本農業技術検定協会」が行い、農業に関する知識や技術の度合いをはかる試験。
1~3級の等級があり、3級は学科試験のみ、1級と2級は学科試験と実技試験です。
学科試験には農業の知識を問う共通問題と、栽培や畜産、食品などから1科目選ぶ選択問題があります。
酪農家になりたい方は、畜産を選んで勉強するのがオススメです。

酪農家になるために目指すべき就職先

酪農家になるための就職先には、以下の3つが挙げられます。
①牧場や酪農家に就職する
②酪農業を営む企業に就職する
③各都道府県の酪農ヘルパー利用組合に就職する

牧場や酪農家

牧場を営む酪農家のもとで、酪農に関する業務に従事します。
実際に働くことで経験を積み、知識や技術を深めていくとよいでしょう。

就職する牧場や酪農家を見つけるには、主に2つの方法があります。
①実習や職業体験に参加する
②大学の就職支援サービスを活用する

在学生向けに実習や職業体験を行ったり、求人情報を紹介したりする大学があります。
支援を積極的に活用して、就職先を見つけるとよいでしょう。

ただし労働時間や給料、業務内容などが雇用主によって異なるため、確認した上で応募しましょう。

酪農業を営む企業

個人で牧場を経営する酪農家だけでなく、酪農業を営む企業もあります。
牧場現場スタッフとして雇われて牧場に配属され、酪農に関する業務を行うことがほとんど。

ただし企業は複数の牧場を経営することが多いため、入社するまで配属先がわからない、希望する配属先ではなかったといったデメリットもあるでしょう。
一方で安定した給料がもらえたり、シフト制で休日をとれたりするメリットもあります。

各都道府県の酪農ヘルパー利用組合

酪農ヘルパーとは、休みをとりたい酪農家に代わって、搾乳やエサやりなどの作業を行う人。
毎日の作業が必要な酪農家は休みをとりづらいため、代わりに作業を行う酪農ヘルパーが活躍し、酪農家を手助けしているのです。

各都道府県の酪農ヘルパー利用組合ごとに、求人を募集しています。
組合によって応募条件や待遇などは異なりますが、北海道から沖縄までの様々な場所で募集しているため、地元で働きたい方にもオススメです。
酪農ヘルパーはひとつの牧場ではなく複数の酪農家のもとで働くため、様々な技術を得られたり、人脈が広がったりするメリットがあります。

酪農家になった後のキャリアプラン

ソフトクリームが人気の酪農場

酪農家や企業、酪農ヘルパー利用組合で経験を積んだ後は、農場経営を目指すのもよいでしょう。

新しく農場経営を始めたり、後継者のいない酪農家や廃業する酪農家から農場を引き継いだりといった手段もあります。
研修を受ける、先輩の酪農家に話を聞くなどの方法で、仕事の技術や経営の知識を学ぶとよいでしょう。

新しく農場経営を行う場合は、牛や施設、機械、農地、資金などを準備します。
昨今では、全国の都道府県や市町村がうまく経営できるまでの資金や、施設・機械の購入資金を補助金として出す制度があるため、自分で農場を経営するハードルが低くなっています。

また誰かから農場を引き継ぐ場合は、農場を経営したい方と農場を譲りたい酪農家をマッチングさせるサービスもあります。
酪農家から農場を譲ってもらえれば、牛や施設、農地、機械などを準備する必要はないため、サービスを利用してみるとよいでしょう。

農場を経営することで、自身が思い描く理想の酪農場にできます。
人気の観光スポットになるかもしれません。

さらに独自の乳製品ブランドを立ち上げれば、チーズやアイスクリームなどの乳製品を販売できます。
インターネットサイトを利用すれば、日本全国へ販売できますし、評判が上がれば海外から注文が来ることもあるでしょう。

このように自分で経営するには酪農に関する知識や技術だけでなく、生乳を販売する農業協同組合や乳製品メーカーとのやり取り、周りの酪農家からの信頼なども必要になります。
スタッフとして農場で働きながら資金を調達したり、人脈を広げたりしておくとよいでしょう。

自分で経営するには酪農に関する知識や技術だけでなく、生乳を販売する農業協同組合や乳製品メーカーとのやり取り、周りの酪農家からの信頼なども必要になります。
スタッフとして農場で働きながら資金を調達したり、人脈を広げたりしておくとよいでしょう。

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酪農家は牛を飼育して乳を搾り、生乳の出荷や乳製品の生産を行う仕事です。
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