近年注目を集める「大学発スタートアップ」について紹介
2025.07.16

目次
大学発スタートアップとは?
大学発スタートアップとは、大学の研究成果や技術を活用して生まれた企業のことです。教授や学生が起業し、最先端の科学技術や知見をもとに社会課題を解決するビジネスを展開します。特に、医療・AI・バイオテクノロジー・ロボットなどの分野で多くの成功事例があります。
大学発スタートアップの特徴
大学発スタートアップには以下のような特徴があります。
① 最先端の技術や知識
大学の研究室で開発された革新的な技術が、実際の製品やサービスとして社会に提供されます。従来の企業が持っていない独自技術を武器にできるのが強みです。
② 充実した支援体制
大学発スタートアップは、政府や大学、投資家などから様々な支援を受けることができます。例えば、起業のための資金援助や、大学の研究設備の利用、専門家のアドバイスなどがあります。
③ 産学連携の推進
企業と大学が共同研究を行い、技術をより実用的なものにすることも多いです。これにより、大学の研究がビジネスに活かされ、企業側も新しい技術を活用できるメリットがあります。
大学発スタートアップの成功事例

大学の研究成果をもとに設立された企業には多くの成功例があり、技術革新や経済成長に貢献しています。いくつかの事例を紹介します。
1. CYBERDYNE株式会社(筑波大学)
筑波大学の研究をもとに設立された企業で、ロボットスーツ「HAL」を開発。HALは、脳の信号を読み取り、身体が不自由な人の動きをサポートする画期的な装置です。医療や介護の現場で活用され、海外展開も進んでいます。
2. ペプチドリーム株式会社(東京大学)
東京大学発の創薬ベンチャーで、特殊なペプチド(たんぱく質の一種)を使った新薬開発を行っています。独自技術により、従来の薬では治療が難しかった病気に対応できる可能性があり、大手製薬会社と共同研究も進めています。
3. リバーフィールド株式会社(東京科学大学:旧東京工業大学)
2014年に国立大学発ベンチャーとして起業しました。事業の公共性・公益性を重んじながら、ロボットのチカラで社会の課題を解決し、科学技術に根差した新しい価値の創出・発展に寄与するため日夜研究開発を行っています。
4. 株式会社Acompany(名古屋大学)
2018年に名古屋大学の学生が創業した、データセキュリティ技術のベンチャー企業です。暗号化したまま分析を行う秘密計算を用いたデータセキュリティに関連するソリューションを提供し、企業が安全にデータを活用できるサービスを提供しています。
5. Spiber 株式会社(慶應義塾大学)
微生物発酵プロセスによりつくられる構造タンパク質素材「Brewed Protein(tm)(ブリュード・プロテイン(tm))」の開発を通じて、サステナブルな社会の実現のために地球規模の課題解決を目指しています。
経済産業省 令和5年度大学発ベンチャー実態等調査
これらの企業は、大学の最先端技術を活かして社会の課題を解決し、新たな産業を創出しています。大学発スタートアップは今後も増え続けています。
経済産業省が行った「令和5年度大学発ベンチャー実態等調査」の結果によれば、2023年10月時点での大学発ベンチャー数は4,288社と、2022年度に確認された3,782社から506社増加し、企業数及び増加数ともに過去最高を記録しました。私立大学のベンチャー数の躍進も見られています。
大学別の大学発ベンチャー数では東京大学が最も多く、また大阪大学の増加に加え、慶應義塾大学、東京理科大学、立命館大学などの私立大学の躍進が目立つ結果となっています。また増加率では情報経営イノベーション専門職大学、東京医科歯科大学などの大学に大きな伸びがみられました。
■大学別大学発ベンチャー数
順位(前年度) | 大学名 | 2021年度 | 2022年度 | 2023年度 | 前年度との差 |
1(1) | 東京大学 | 329 | 370 | 420 | +50 |
2(3) | 慶應義塾大学 | 175 | 236 | 291 | +55 |
3(2) | 京都大学 | 242 | 264 | 273 | +9 |
4(5) | 大阪大学 | 180 | 191 | 252 | +61 |
5(4) | 筑波大学 | 178 | 217 | 236 | +19 |
6(6) | 東北大学 | 157 | 179 | 199 | +20 |
7(7) | 東京理科大学 | 126 | 151 | 191 | +40 |
8(9) | 早稲田大学 | 100 | 128 | 145 | +17 |
9(8) | 名古屋大学 | 115 | 137 | 143 | +6 |
10(12) | 立命館大学 | 87 | 110 | 135 | +25 |
※企業数は当該調査年度時点で把握した数であり、前年度との差分は必ずしも新規設立数ではないことに留意が必要。
■対2022年度比増加率
順位 | 大学名 | 対2022年度比 | 推移 |
1 | 情報経営イノベーション専門職大学 | 307% | 15→46 |
2 | 東京医科歯科大学 | 250% | 8→20 |
3 | 芝浦工業大学 | 190% | 10→19 |
4 | 横浜市立大学 | 167% | 6→10 |
5 | 北海道大学 | 163% | 63→103 |
6 | 近畿大学 | 162% | 50→81 |
7 | 同志社大学 | 144% | 9→13 |
8 | 愛媛大学 | 140% | 10→14 |
9 | 新潟大学 | 138% | 8→11 |
10 | 関西学院大学 | 136% | 14→19 |
●経済産業省 令和5年度大学発ベンチャー実態等調査
https://www.meti.go.jp/press/2024/05/20240515001/20240515001.html
大学発スタートアップを後押しするさまざまな支援

大学から生まれたベンチャー企業は以前からあるものですが、近年特に活発になってきている要因のひとつとして、国や地方自治体によるさまざまな支援策があります。
内閣官房 スタートアップ育成
政府が日本のスタートアップ成長を支援する取り組みです。政府の支援を活用し、大学発スタートアップが成長しやすい環境が整備されています。例えば、大学の技術移転機関(TLO)や、政府主導の投資ファンドも活用が可能で、これにより研究成果が社会実装され、日本の競争力向上にもつながることを目指しています。
特に「スタートアップ育成5か年計画」(2022年策定)では、資金調達の強化、規制緩和、海外展開支援を柱としていて、これにより大学発スタートアップも成長しやすい環境を提供しています。
●内閣官房 スタートアップ育成ポータルサイト
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/su-portal/index.html
文部科学省 文部科学省におけるスタートアップ支援施策
文部科学省では、「大学等の優れた研究成果等を基にしたスタートアップ・エコシステム環境の創出に向けて大学等に対する支援」を行っています。
その中のひとつであるSTART(研究成果展開事業 大学発新産業創出プログラム)では、大学の研究成果を事業化し、新産業を生み出すための資金提供・メンター支援・事業開発サポートなどの支援を行っています。具体的には、研究者が起業する前に研究開発費を支援し、起業経験者や投資家がアドバイスを提供、さらに市場調査やビジネスモデル構築もサポートします。
●文部科学省 文部科学省におけるスタートアップ支援施策
https://www.mext.go.jp/a_menu/kagaku/startup/mext_02343.html
●科学技術振興機構 START(研究成果展開事業 大学発新産業創出プログラム)
東京都 大学発スタートアップ創出支援事業
東京都の大学発スタートアップ創出支援事業は、大学の研究成果をもとに新しいビジネスを生み出す取り組みを支援する制度です。
この事業では、東京都が大学と連携し、事業化のノウハウ提供・資金支援・メンター派遣を行います。大学内の起業支援体制を強化し、技術やアイデアを持つ研究者や学生がスムーズにスタートアップを設立できるようサポートします。
令和5年度には東京大学や早稲田大学など10の大学が参画し、医療・環境・ITなどの分野で事業化が進んでいます。東京都は今後も支援を拡大し、革新的な企業の誕生を促進する方針です。
●東京都 大学発スタートアップ創出支援事業
https://www.startupandglobalfinancialcity.metro.tokyo.lg.jp/startup/initiatives/university-startup-support
まとめ
大学発スタートアップは、最先端の技術を活用し、社会課題を解決する企業として注目され、日本のイノベーションを牽引する存在となっていくことでしょう。成功事例も増えており、今後もさらに発展が期待されています。
「起業」に興味がある人は、実例を間近に見ることができる大学を進路決定のための選択肢のひとつとして加えてみてはいかがですか。
Biki-noteでは、これからも受験生のみなさんに役立つ情報を提供していきます。