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海運(海輸)業界とは?主な企業や職種、大学と学部学科の選び方も

2024.04.10

カテゴリー:
港で働く海運会社の女性

海運(海輸)とは、船を使って人やモノを運ぶことです。海運(海輸)は大量の荷物を遠くに運べるうえ、ほかの輸送手段よりもコストが低いという特徴があります。大昔から物資輸送に使われてきた海運は、陸運や空運が広まった現代でも、重要な役割を果たしています。この記事では海運(海輸)業界の特徴や職種について詳しく解説します!就職に有利な大学や学部学科も紹介しますので、進路選びに役立ててくださいね。

海運(海輸)業界の魅力や代表的な企業の例

海運(海輸)は海上での仕事がメインであるため、イメージがしにくい業界です。ここからは海運業界のイメージがつかめるよう、業界の特徴や魅力、代表的な企業例を紹介します!

海運(海輸)業界とは

海運業界のメイン事業は海運、つまり船を使った輸送です。国外の海での輸送を「外航海運」、国内の海での輸送を「内航海運」と呼びます。船の種類は決まった航路を定期的に行き来する「定期船」と、荷主のニーズに応じて輸送する「不定期船」の2つです。船の名称は何を積むか(積荷)によって違います。たとえば人を乗せる船は「客船」、日用品・工業製品の輸送に適した船は「コンテナ船」、液体天然ガス専用の船は「LNG船」と呼びます。積荷の種類や運航ルートには各社で個性が表れるのが特徴です。

海運業界では、メイン事業の海運以外にも「船を貸す・売る」ことがビジネスモデルとして成立します。海運は基本的に「どれだけ多くの船を動かせるか」で利益は決まりますが、自社で保有できる船の数には限りがあります。そこで登場するのが「船舶貸渡業」です。一部の企業は、自社の船の賃貸と売買で利益を安定させています。
多くの海運企業を抱える日本では、日本郵船、川崎汽船、商船三井の「海運大手3社」が大きなシェアを占めています。日本の海運(海輸)業界は20世紀の初頭から、戦争による物資の輸送で大きく発展しましたが、戦後の不況で海運企業同士の吸収合併が次々に起こります。その結果、海運大手3社が生まれました。

原油価格の高騰などの景気にネガティブな影響を受けやすいのが海運(海輸)業界の課題です。海運大手3社は課題を解決するために、2017年に日本初のコンテナ船会社「ONE」を設立しました。日本郵船、商船三井、川崎汽船3社の資産、人材、ネットワークを1つに集結することで3社のノウハウを活用するのが狙いです。ONEは発足から間もない2022年には2兆円を超える業績を残し、海運(海輸)業界にインパクトを与えています。

海運(海輸)業界の魅力

海運(海輸)業界の魅力は「スケールの大きさ」と「社会的な意義」です。世界中の海を舞台にしたダイナミックな仕事は他に代えがたく、人々の生活を支えるという大きな意義があります。特に島国の日本にとって海運は重要です。具体的には輸入・輸出の99.6%の割合を担うのが外航海運です。一方の内航海運は、国内の貨物輸送の約4割、石油製品や鉄鋼、セメントなどの物資については8割以上を輸送しています。世界有数の貿易量を誇る日本の生命線を担う仕事であるため、やりがいを求める人にとっては魅力的な業界です。平均年収が400万円以上と高めで、入社後の従業員満足度(ES)が安定していることから、就活生に高い人気を得ています。

海運(海輸)業界の代表的な企業の例

海をゆくガスのタンカー

日本の代表的な海運企業の一例は次のとおりです。

日本郵船株式会社
海運をはじめ、陸上輸送、航空輸送を展開する総合物流の企業です。不定期船の運航事業に強みがあり、日本の海運(海輸)業界で最大の従業員数と売上高を誇ります。世界初のアンモニア燃料船を2024年6月に完成させる見通しであることを発表し、環境配慮の面で将来性を示しています。

株式会社商船三井
運航隻数ランキングは世界第3位、液体天然ガスを運ぶLNG船は世界第1位の94隻(2023年3月時点)を保有する、海運大手3社の一角です。資源やエネルギー原材料の外航海運をメイン事業とするほか、SDGsの観点から洋上風力を利用した再生エネルギー事業への取り組みに力を入れています。

川崎汽船株式会社
自動車専用船やLGN船を日本で初めて導入したことで知られる海運企業です。現在は海運に限らず、陸上・航空輸送も手がけており総合的な物流サービスを展開しています。拠点数は24ヶ国に40ヶ所以上。5人に1人の社員が海外に駐在するなど、グローバルな活躍ができる企業です。

飯野海運株式会社
石油化学製品を輸送するケミカルタンカーの運航に強みをもつ海運企業です。景気の影響を受けやすい外航海運業と、安定した収入を得やすい不動産業の両方をメイン事業とすることで、安定した経営を目指しています。

NSユナイテッド海運株式会社
海運大手3社に続く、国内の業績第4位の外航海運会社です。業界最大規模のケミカルタンカー船団を運航しており、鉄鋼原料、資源エネルギーの不定期船での輸送は、1966年から培ってきたノウハウと実績が国内外の荷主から高く評価されて信頼を得ています。2003年にはグループ会社が日本初の国内LNG船を就航させたことで注目を集めました。

・東京汽船株式会社
寄港する大型船の安全な着岸・離岸をサポートする曳船(えいせん)事業において、国内2位のシェアを誇る海運企業です。主にコンテナ船に貨物の積み卸しをする港湾事業に特化しており、大型船を先導するエスコートタグボートを展開。東京湾を中心にフェリーや観光船も運航しています。

海運(海輸)業界の職種

海の様子を見る運行管理

海運の仕事は船の上で働く海上職と、地上で働く陸上職に分けられ、それぞれの現場で専門的なスキルを生かして業務を分担しています。海運(海輸)業界の主な職種は次のとおりです。

船長・航海士

船長・航海士は船を動かす仕事です。気象や海の状況をもとに航路を決定し、乗組員と貨物を安全に送り届けます。船長は航海の全責任を負う最高責任者です。安全な航海をするために、航海士へ操縦の指示を出します。航海士には船の操縦以外に、荷役という仕事があります。荷役とは貨物の運搬、管理、積み下ろし作業のことです。貨物によっては航海士が積み下ろしのプランを練り、甲板部でオペレーションすることもあります。

機関長・機関士

機関士はエンジンや発電機、ボイラーなど船の動力となる設備を管理し、船に異常が起きないよう日々メンテナンスするのが仕事です。機関長は機関部の最高責任者として数名の機関士を束ね、機関制御室であらゆる計測装置をチェックします。機関長・機関士は、安全な航海には欠かせない動力のプロフェッショナルです。

通信士

通信士は安全な航海のために無線通信で陸上の相手と連絡をとるのが仕事です。海のうえではスマートフォンのような電波を発信する機械はほとんど使えません。そこで通信士の出番です。通信士は通信に使用する無線機器の動作確認や整備を担当します。船がほかの船とぶつかることなく運行できているのは通信士が常に陸上と連絡をとっているからです。昨今は船長や航海士が通信士を兼ねている場合が多く、専任の通信士は減少傾向です。

営業

営業職の主な仕事内容は「船に乗せる貨物」を集めることです。製造業や化学製品などのクライアントを訪ねて輸送の提案をします。新規の輸送契約や船の賃貸契約、それらの契約更新に対応する、海運企業の相談窓口です。契約によっては数十年の長期契約や、数億円規模の高額な契約になる場合もあります。

船舶調達

船舶調達は、取引先の要望に応じた船を手配して運航させる事務職です。自社の船に都合がつかない場合は船主に交渉します。新たな造船を必要する場合は技術部や財務部と連携して船を調達します。

運航管理

運航管理は、貨物の積み込みや燃料補給、寄港地の選定などの運航計画をつくり、船に指示を出す事務職です。天候や海の状況を毎日チェックして効率的な航海スケジュールを作成します。運行管理はオペレーターとも呼ばれています。関係が悪化している国や紛争が起きている国への寄港を避けるなど、政治や経済にも精通していなければいけない職種です。

技術開発

技術開発は、環境への負荷が小さく、燃費に優れ、安全性の高い運航を実現するために新しい技術を開発したり、導入したりする技術職です。物流業界では一歩後れをとっているといわれる海運のデジタル化の推進に期待がかかっています。

海運(海輸)業界で求められる人とおすすめの学部

将来海運業界で働きたい女子高生

海運企業では「少数精鋭」で運営をします。そんな海運(海輸)業界ではどのような人材・人物像が求められるのでしょうか?ここからは海運(海輸)業界で求められる人の特徴と、海運(海輸)業界に興味がある人へおすすめの大学・学部について解説します!

求められる経験や資格

船長・航海士や機関長・機関士、通信士などの海上職に就くためには国家資格の「海技士免許」が必要です。一方、陸上職(事務系)に必須の国家資格はありません。ただし、いずれの現場も語学力を重要視する傾向にあります。なかでも特に英語は重要です。外航海運を営む企業はときに商談から書類の作成までのやり取りを英語で進めなければなりません。海外に拠点がある場合には海外赴任の可能性があります。海運(海輸)業界で働くのであれば、どの職種でも日常会話レベルの英語が必須です。

海運(海輸)業界に向いている人

海運(海輸)業界には、次のような資質をもつ人が向いています。

・責任感
海上職・陸上職のどちらも少数精鋭で動きます。一人ひとりの仕事への責任がとても大きい業界です。万が一、業務で判断を誤ってしまうと大きな事故を招いてしまう恐れがあります。多くの人命が失われたり、大災害につながったりしかねません。海上輸送を安全かつ円滑に進めるためには責任感を持って慎重に仕事に取り組める人が向いています。

・コミュニケーション能力
海運の現場ではコミュニケーション能力を試される場面が多くあります。たとえば陸上職では「最短で荷物を輸送したい」といった要望に応えるために現場の社員と協力しながら輸送の段取りを調整したり、お客さまから自社を輸送手段として選んでもらえるよう価格や契約内容の交渉をしたりといった場面です。海上職においても、大きな事故につながるのを防ぐために乗員同士で伝達ミスが起きないよう良好な人間関係を築いておかなければなりません。

・分析力
海運業界は経済や政治などの社会情勢の影響を受けやすい業界です。それらの影響で原油価格が高騰したり、寄港できず船の運航ルートを検討し直したりする必要が出てきます。そのため、海運業界は常に先を見越して業務を進めます。世界の社会情勢や経済の動向、天候や海の変化を把握して、リスク回避の対策を練らなければなりません。判断をスピーディーにするためには、どのようなリスクが発生するか予測するための現状の分析が必要不可欠です。

海運(海輸)業界で働くためにおすすめの学部

東京海洋大学の品川キャンパス

海運(海輸)業界で働くためには、航海や船に関する幅広い専門的な知識が必要です。海運(海輸)業界で働きたいのであれば、専門知識を学べる大学・学部に進学しましょう。海運(海輸)業界で働くためにおすすめの学部は以下の通りです。

海洋学部・海洋工学部
船長・航海士、機関長・機関士、通信士などの海上職を目指すなら、海洋学・海洋工学部がおすすめです。海洋学・海洋工学部で学ぶ海の現象の知識は、船上の業務に活かせます。以下の3つの大学では、海上職に就くために必要な3級海技士(航海・機関)を取得するカリキュラムが用意されています。3級海技士資格の所持は採用担当者の目に留まりやすいプロフィールです。

東京海洋大学 海洋工学部 海事システム工学科
東海大学 海洋学部 海洋理工学科 航海学専攻
神戸大学 海洋政策科学部 海洋政策科学科

工学部・理工学部
海運企業で技術系の仕事に就くためには理系大学の卒業が必要です。理系の学部のなかでも、船舶の理解を深められる工学部・理工学部出身であれば志望動機に信頼性が増します。選考時にアピールできるのでおすすめです。船舶の工学・理工学を学べる大学の一例は次の通りです。

埼玉工業大学 工学部 機械工学科
名城大学 理工学部 交通機械工学科 
長崎総合科学大学 工学部 工学科 船舶工学コース
九州大学 工学部 船舶海洋工学科

国際政治経済学部・政治経済学部
営業、船舶調達、運航管理などの陸上職への就職を志望するなら、政治経済学部をおすすめします。海運(海輸)業界とは切っても切り離せない「政治と経済」を学び、グローバルな目を養えることがメリットです。国際政治経済学・政治経済学を学べる大学の一例は以下の通りです。

二松学舎大学 国際政治経済学部 国際政治経済学科
早稲田大学 政治経済学部 国際政治経済学科
聖学院大学 政治経済学部 政治経済学科
日本大学 法学部 政治経済学科

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