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生命科学とは?生物学との違いや学ぶ種類と内容、活用できる職業を解説

2023.10.12

カテゴリー:
ラボで研究する人

生命科学とは

生命科学とは、生物や細胞についての研究をする学問です。生命科学の知見は、医学、農学、工学など幅広い分野に活かされ、私たちの生活や健康に関する問題解決につながります。生きることと密接に関わっているため「ライフサイエンス」とも呼ばれています。

生物学との違い

生物学は生物に関する以下のような内容を幅広く研究する学問です。

  • 生物の多様性
  • 進化
  • 生態学
  • 分類学

一方、生命科学は生物学の一分野で、生物の以下のような側面にアプローチする学問です。

  • 細胞や生体分子の働き
  • 遺伝子
  • 生体反応
  • 病気の原因と治療法

まとめると、生物学は生物全般の研究を含む大きな枠組みであり、生命科学は生物学の中でも細胞や遺伝子などの特定の領域に焦点を当てた学問と言えます。

医学との違い

医学は生命科学の一分野で、病気の診断や治療、予防に焦点を当てた医療分野です。一方、生命科学は、生命の基本的なプロセスや仕組みを理解しようとする学問で、医学をはじめ、生態学、遺伝学、生化学、細胞学、進化学などさまざまな分野を含んでいます。

生命科学で研究していること

生命科学で研究していることの一例として、以下の4つを紹介します。

  • 遺伝子やゲノムなどの生命プログラム研究
  • 最先端医療研究
  • クローン技術の研究
  • 感染症対策のための研究

順番に解説していきます。

遺伝子やゲノムなどの生命プログラム研究

生命科学の分野では、遺伝子やゲノムの研究を行います。遺伝子やゲノムと聞いてもピンとこない人も多いと思うので、まずは細胞のお話からはじめます。

ヒトの遺伝子の説明図

引用:遺伝子とは|東京女子医科大学ゲノム診療科


私たちの体を構成する細胞の核には染色体があり、染色体の中には遺伝情報を伝えるDNAが含まれています。さらに、DNAの中には遺伝情報をもつ「遺伝子」があります。DNAは遺伝情報を伝える物質であり、DNAに書き込まれた遺伝情報が遺伝子というわけです。

遺伝子は、DNAに含まれる一つひとつの遺伝情報を指しますが、DNAの中にあるすべての遺伝子をまとめて「ゲノム」と呼んでいます。

遺伝子やゲノムを研究することで、生まれもった疾患リスクや体質がわかるため、病気の予防や新しい治療法の開発に役立ちます。

最先端医療研究

最先端の医療研究も生命科学の分野です。最先端の医療研究は、医者や科学者たちが病気を治す方法を見つけるためにとても大切な研究です。ここでは最先端医療の例として、再生医療について解説します。再生医療とは、事故や病気で失った組織や臓器を再生させる医療です。皮膚や軟骨の再生はすでに成功していますが、肝臓や腎臓といった複雑な組織をつくる技術は、まだ研究段階です。

山中伸弥教授が発表した「iPS細胞」によって、再生医療はさらに進歩しました。将来的には、心臓や脳などのさまざまな組織や臓器を再生できる可能性が出てきています。

クローン技術の研究

生命科学の研究分野のひとつに、クローン技術があります。クローンとは、遺伝的にまったく同じ個体や細胞という意味で、すでにクローン羊やクローン牛が誕生しています。クローン技術を使えば、私たち哺乳類のような有性生殖を必要とする生き物も、無性生殖で生み出すことができるわけです。つまり技術的には、あなたとまったく同じクローン人間をあなたの細胞から作ることができるのです。

クローン技術で同じ遺伝子をもつ生き物を作れると、以下のようなことが可能になります。

  • 肉質や乳量の多い牛の大量生産
  • 絶滅危機にある動物の生産
  • 実験用動物の生産
  • 病気の治療に必要な物質を乳の中に分泌する動物の生産

つまりクローン技術は、食料の安定供給や希少動物の保護、効率よく医薬品を生産することに役立ちます。

クローン技術を人間に適用させれば、子どもができない夫婦が子どもを持てたり、科学的な研究に役立てたりできる可能性があります。しかし、そこには安全面や倫理的な問題もあるため、現在はクローン人間を作ることは禁止されています。

参考:クローンって何?|文部科学省

感染症対策のための研究

生命科学の研究分野には、感染症対策もあります。感染症の研究は、病原体の特性や増殖メカニズム、感染条件などを解明し、ワクチンや抗生物質の開発に役立ちます。感染症対策の研究は、私たちの健康を守るために非常に重要な役割を果たしています。

大学で学ぶ生命科学の種類

DNAのイメージ

大学では、1年次に生命科学の基礎を学び2年次以降に専門分野を学ぶのが一般的です。それぞれどのような内容を学ぶのか見ていきましょう。

基礎研究分野

1年次では高校で学んだ知識を再確認しながら、以下のような専門分野の基礎知識を幅広く学びます。

・生物学
高校までの生物は暗記中心の科目というイメージがありますが、大学で学ぶ生物学は、観察や実験を通して論理的に生命現象を学ぶのが特徴です。たとえば生命の誕生や器官形成を学ぶ「発生学」では、まだ卵から孵化していないニワトリの卵に穴を開け、生きた状態のニワトリの胚を観察したり、穴から遺伝子を導入するオペを行い胚発生にどのような影響があるのか実験したりします。

生物学のジャンルは幅広いため、大学選びの際は、自分の興味のあるジャンルを扱っているか調べてみましょう。

・化学
高校で学ぶ化学は、理論化学・無機化学・有機化学・高分子化合物の4つですが、大学では物理化学や生化学、分析化学など多岐にわたります。たとえば、物理化学は高校物理の発展形で、以下の2つの分野から構成されます。

  • 原子・分子レベルで物質や現象を解明する「量子化学」
  • 気体や液体、個体のように原子・分子の数え切れないほどの集合を考える「化学熱力学」

物理化学は、化合物や分子の構造や性質について、物理的な視点で解明しようという学問です。

・生物物理学
生物物理学は物理学のアイデアや技術を使って、生命の不思議な現象を解明しようとする研究分野です。扱うテーマとしては、分子や遺伝子などの小さな部分から、脳や神経系などの高度な生命の仕組みまで幅広いです。たとえば、DNAの構造や酵素の働き、脳の電気信号の伝わり方などを研究し、私たちの体や生活に関する理解を深めます。

・生命倫理学
生命倫理学とは、生命や医療に関する倫理的な問題を考える研究分野です。生命倫理学は、生命科学と医療の進歩によって、生命現象を技術的にコントロールできるようになったことから確立された比較的あたらしい学問です。

たとえば、臓器移植や遺伝子編集、人工生殖、安楽死などに対して、どこまで技術的に介入してよいのかといった、生命にまつわる難しい問題に取り組みます。

専門研究分野

細胞のイメージ

1年次で生命科学の基礎を学んだあと2年次以降は、以下のような専門研究分野を選択する場合が多いです。

・ゲノム科学
ゲノム科学とは、おもにゲノムと遺伝子について学ぶ生命科学の一分野です。ゲノムとは、DNAの中にある遺伝子をまとめた総称で、生物の特徴や情報が詰まっています。ゲノム科学では、DNAの構造や機能、遺伝子の相互作用、ゲノム編集などについて研究します。

ゲノム編集とは、生物がもつDNA配列を狙って変化させる技術です。ゲノム編集技術が役立っている例として、作物の品種改良の効率化が挙げられます。これまで長い期間かけて行っていた品種改良をスピードアップさせることで、食料不足や国内農業の強化など、さまざまな課題に対応できます。

・細胞生物学
細胞生物学とは、生命の基本単位である細胞について学び、生物の基本的な構造と機能を研究する分野です。具体的には、細胞について以下のような内容を学びます。

  • 構造・機能
  • 増殖・分裂
  • エネルギー生産

生命科学の基礎を理解し、医学やバイオテクノロジー、環境科学などの分野に貢献するスキルと知識を獲得します。

・神経生物学
神経生物学は、脳や神経系の働きについて学ぶ学問で、とくに情報伝達の役割を担うシナプスについて学びます。

情報伝達のメカニズムや信号伝達物質の働き、神経細胞間の相互作用を解明することで、脳の機能や神経系の調節メカニズムを明らかにします。この研究は、神経学や脳科学、精神医学などの分野において神経疾患や障害の治療法、予防策を開発するのに役立ちます。

・免疫
免疫学は、免疫の基本的な原理や免疫関連の病気を研究する学問分野です。免疫は、外部から侵入したウイルスに対抗し、身体を守るための仕組みです。免疫が正常に働けば、ウイルスを攻撃して排除でき感染症を防げますが、免疫システムが過剰に反応したり、適切に機能しなかったりする場合、アレルギーやリウマチなどが発生することもあります。

ウイルスに感染した組織であらわれる症状や、ウイルスの侵入を察知した免疫細胞の動きなどを学びます。

生命科学を学べる大学・学部

遺伝子やゲノムのイメージ

生命科学が学べる大学・学部の一例は、以下の通りです。

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「生命科学」で検索すると「再生医療」や「獣医学」などより詳細な研究テーマが表示されます。じぶんがどんな研究テーマに興味があるのか、それをどの大学で学べるのかわかります。ぜひ使ってみてください。

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生命科学を活かせる職業

化粧品メーカーの研究開発職で働く女性

生命科学を活かせる職業としては、各分野の研究職があります。ここでは、以下の職業について詳しく解説します。

  • 食品メーカーの研究開発職
  • 化粧品メーカーの研究開発職
  • 製薬会社の研究開発職
  • 公的研究機関
  • 大学の研究者

研究者の仕事内容や就職先、求められる資質について詳しく知りたい人は、以下の記事も参考にしてみてください。
研究者になるには?仕事内容や就職先・求められる能力について解説 – 逆引き大学辞典 (gyakubiki.net)

食品メーカーの研究開発職

食品メーカーの研究開発職は、バイオテクノロジーの知識を使って、健康に良い食品や食糧難を解決する新しい食品を開発します。たとえば、より栄養価が高く環境に優しい食品を作り出すために、遺伝子改良を行ったり、アレルギー対応食品や特別な栄養が必要な人々のための食品を開発したりします。

サプリメントや栄養補助食品の代表的な企業としては、サントリー、日清食品、味の素などが挙げられます。

化粧品メーカーの研究開発職

生命科学の化学薬品や皮膚科学に関する知識を活かせる仕事として、化粧品メーカーの研究開発職があります。化粧品メーカーの代表的な企業としては、資生堂や花王、コーセーなどが挙げられます。

研究職の仕事内容は幅広いですが、主に以下の3つにわけられます。

・基礎研究
基礎研究では、化粧品に使われる成分や素材の新しい発見に取り組みます。既存の化粧品成分を調べ、化粧品の効果をデータにしたり、新しい製品の開発に役立てたりすることもあります。

・処方開発
基礎研究で得た知識をもとに、化粧品の開発を行います。必要な成分を配合し、目的の化粧品の試作品を作ります。化粧品は、わずかな成分量の違いで品質が変わってしまうので、慎重に検討しながら取り組みます。

・安全性研究
開発した化粧品を世に出す前に、安全性や使い心地を確かめます。安全性の試験は、化粧品を作る原料の段階、製品になった段階の2回行われることもあります。試験は細胞試験や人による確認試験など数回にわたり慎重に行われ、問題がないか慎重に検討したあと販売されます。

製薬会社の研究開発職

製薬会社は新薬を作る研究職と、作った薬を実際に人で試し安全性を確認する開発職があります。研究職はさまざまな部門に別れており、薬の成分を合成する研究所や細胞やマウスに薬を投与し薬の効果を調べる研究所などがあります。開発職との大きな違いは、実験をベースとして仕事を行うことです。

開発職は薬の製造販売承認を得るために、臨床試験を行い安全性を確認する仕事です。全国の病院の先生や承認審査を行うPMDAという機関との相談や、承認申請に必要な資料の作成も大事な仕事です。

医療業界には、医師や薬剤師に医薬品の情報を提供するMRという営業職もあります。気になる人は、ぜひ以下の記事も参考にしてみてください。
MRとはどのような職業?仕事の内容から似ている仕事、なり方まで – 逆引き大学辞典 (gyakubiki.net)

公的研究機関の研究者

国立がん研究センターや国立感染症研究所、国立遺伝学研究所などの公的研究機関も就職先のひとつです。国立がん研究センターでは、がんの発生メカニズムやがん細胞の特性について研究します。これにより、新たな治療法や診断方法の開発に貢献します。これには分子生物学、遺伝学、細胞生物学など、生命科学で学ぶ知見が必要です。

大学の研究者

「生命科学について、さらに詳しく研究したい」「生命科学の面白さを伝えたい」という人は、大学の研究者になる道もあります。大学の研究者のおもな仕事は研究と教育の2つです。研究テーマについて実験や調査を行い、論文にまとめ上げながら、授業やゼミ、研究室で学生に専門知識を教える役割を担います。就職条件として、大学院卒業以上が挙げられることも多いです。

大学教授のなり方や仕事内容について詳しく知りたい人は、以下の記事も参考にしてみてくださいね。
大学教授になる方法は?仕事内容や求められる人の特徴 – 逆引き大学辞典 (gyakubiki.net)

(まとめ)生命科学が学べる大学を「逆引き大学辞典」で検索しよう

生命科学とは、生物や細胞についての研究する学問で、医療や食糧問題などの解決に役立ちます。将来的には、化粧品や食品メーカーの研究職、公的機関や大学の研究者として活躍できるでしょう。
生命科学が学べる大学を調べるなら「逆引き大学辞典」で検索してみてください。生命科学が学べる学科を配置した大学を検索できます。ぜひ、進路選びの参考にしてみてください。

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