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治験コーディネーター(CRC)になるにはどうすればいい?仕事内容や求められるもの

2023.05.17

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新しい薬の開発によって、これまで治らなかった病気が治るようになったり、症状を和らげられるようになったりと、医療は日々進歩しています。高校生のみなさんは、薬の開発がどのように進められているか知っていますか?

実は、新しい薬が世の中に出てくるまでには、使用しても問題がないかどうか多くの専門家が研究をしています。その中のひとつに、人体にどのような影響が出るかを確かめる治験というものがあります。

この記事では、そんな治験をスムーズに行うためのサポートを行う、治験コーディネーターについて解説します。どのような職業の人なのか、どんな仕事をしているのか詳しく紹介していきますね。

治験コーディネーターとは?

薬を見せる治験コーディネーター

治験コーディネーターとは、治験をスムーズに行えるように、進行の調整役となる人です。CRC(Clinical Research Coordinator)とも呼ばれています。治験とは、新しく医薬品や医療機器を開発した時に、安全性や人への有効性を確認するために患者さんに使用してもらう臨床試験のことです。

新しい薬が開発されるまでには、効果や効能以外にも、安全性や有効性・用法・用量や副作用などを確認しなければなりません。治験では、対象の患者さんに協力してもらうことで新薬のデータを集め、薬の開発に役立てます。

治験には、治験を依頼する製薬会社、治験を実施する医療機関の医師や院内スタッフ、患者さんと、さまざまな人が関わります。治験コーディネーターはそうした人たちの間に立ち、治験が円滑に進むように橋渡しとなる存在です。

治験はこれから世に出る医薬品や医療機器の臨床試験となるため、「自分の身体に異常はでないか」不安に感じる患者さんもいます。治験コーディネーターは、そうした人たちが安心して行えるように相談相手となったり、治験の内容を詳しく説明したりしてサポートするのも仕事のひとつです。

治験コーディネーターの仕事内容と流れ

治験コーディネーターの仕事内容は、治験準備時・実施時・終了時の3段階にわかれます。治験が適切に行えるように、患者さんだけではなく製薬会社や医療機関など、治験に携わる各種機関の人たちと協力しながら進めていきます。

準備①治験実施計画書(プロトコール)の理解
治験を行う際、製薬会社と医療機関には絶対に守らなければならないことがあります。それは、治験を行う目的や実施方法などです。それを守るために、治験実地計画書が必ず作成されます。治験は、これから世に出る薬の臨床試験のために行うものです。まだ一般的に使用されていない薬を患者さんに使ってもらうため、「医薬品の臨床試験の実施の基準に関する法令」にもとづいて、治験実施計画書を守らなければなりません。

治験実施計画書に書かれた実施方法や目的を守らずに行うと、薬事法違反に問われます。薬事法違反になると、その時の治験は中止・無効になり、状況によっては企業が営業停止になることもあります。治験実施計画書の内容は、それくらい重要なものです。

そうした事態をなくし、治験に協力してくれる患者さんが安心して行えるように、製薬会社が勉強会を開いて、治験薬や治験実施計画書の説明を行います。治験コーディネーターは治験を行う前に、必ずこの勉強会で説明を受けなければなりません。

準備②スタートアップミーティング
スタートアップミーティングでは、製薬会社が治験に関わるスタッフに治験に関する説明を行い、治験実施時の役割を決めます。治験コーディネーターは、製薬会社と協力しながら、資料作成や司会などを務めて、ミーティングをサポートするんですよ。

準備③検査機器などの資材管理
製薬会社から、治験で使う検査キットや検査機器が搬入されます。治験コーディネーターは、それらの資材を適切に管理し、治験実施時に使えるように準備しておきます。

実施①被験者の募集
治験の準備ができたら、治験に協力してくれる被験者を募集します。治験実施計画書に基づいて、適切な人を探します。被験者を探す際は、医師からの紹介、病院のカルテ医療情報システムを使っての検索を行い、患者さんの中から探す場合が多いです。また、生活習慣病などが対象の場合は、インターネットで募集する場合もあるんですよ。その場合は、病院の患者さんではなく、治験に協力してくれる対象者を広く探します。治験コーディネーターは、あらゆる方法で治験に協力してくれる人を探します。

実施②被験者への同意説明補助
治験の参加基準を満たした被験者に対して、治験の責任者である医師が治験の来院スケジュールや想定される副作用などの事前説明を行います。治験コーディネーターは医師の説明を補助し、被験者に渡す治験の説明文書や同意書の作成をお手伝いします。

説明文書や同意書は医師が作成するものですが、治験コーディネーターが作成に関わり、医師が最終チェックをする場合もあるんですよ。作成する際は、一人でも多くの人が治験に協力してくれるように、わかりやすい説明文書が求められます。

実施③被験者対応
治験コーディネーターは、治験に同意した被験者の状況を確認し、サポートするのが役目です。基本的に被験者が治験を行っている間は、医師が被験者を診察します。しかし、医師の診察の前に治験コーディネーターが問診を行う時や、診察に同席して問診をする場合もあります

医師だけではサポートしきれない部分を、治験コーディネーターがサポートするということです。問診の際に、治験に対して被験者が不安を感じていないかなど、心のケアも同時に行うのが治験コーディネーターの役目の1つです。他にも、治験コーディネーターは被験者に対して以下の対応を行います。

  • 来院スケジュールの調整
  • 治験薬の服薬状況の確認
  • 有害事象が起きていないかのチェック
  • 併用薬剤の確認
  • 服薬指導
  • 負担軽減費支払いの確認

治験薬によって、被験者が気持ち悪くなったり頭が痛くなったりと、身体に異常が起きた時には、治験の責任者である医師に報告し、処置してもらいます。そうした有害事象が発生した時は、治験コーディネーターが発生した経緯や検査で異常な数値があるか、併用していた薬があるかなどの原因と関係性を報告書にまとめます。

まとめた報告書を、製薬会社や治験を実施している医療機関の病院長に提出するまでが、治験コーディネーターの役目です。

また、被験者は治験に協力するために学校や仕事を休んでいる場合があります。会社や学校に行く時間とお金を犠牲にし、交通費をかけて治験の実施場所まで足を運んでいるのです。そのため、被験者には負担軽減費という名目で、協力するためにかけたお金を考慮した分を支払います。

実施④被験者の症状報告書の作成
治験コーディネーターは、治験を行っている間に、被験者にどのような症状が現れたのかがわかるように、症状報告書を作成します。症状報告書を作る時は、治験の責任者である医師の指示を受けながら、治験時に診察したデータを書き写していきます。症状報告書に書き写す内容は、医師が診察時に作成したカルテや、治験の薬をどの時間にどれくらい飲んだかを記録した投薬記録票、検査をした時の検査項目とそれぞれの検査結果が書かれている検査結果伝票、X線検査などで確認できる投影画像をもとに作成します。

治験コーディネーターが行うのは、すでに医師が作成したデータの転記のみです。症状報告書は、治験の依頼者である製薬会社に提出します。

終了①治験終了報告書の作成
治験が終わったら、治験が終了したことを報告するために治験終了報告書を作成します。報告書の内容を実際に書くのは医師なので、治験コーディネーターが行うのは報告書の原案作りです。

報告書には、治験が終了したのか中断することになったのか結果を記載。また、どれだけの被験者にお願いしたのかがわかるように、実施した数と始める前に目標としていた被験者数を記し実際に治験を行ってどのような結果になったのかがわかるように、治験の結果をまとめます。

治験コーディネーターが報告書の原案を作成したら、治験の依頼者である製薬会社などに内容を確認してもらい、最終的に治験の責任者である医師に内容を確認してもらう流れです。

最後に医師が報告書をまとめあげ、治験を実施した医療機関の院長に提出します。治験コーディネーターが報告書の作成を手伝うことで、医師の負担を減らせます。そのため、治験の結果報告が速やかに行えるでしょう。治験コーディネーターは、被験者の負担だけでなく、治験を担当している医師の負担を軽減する存在でもあります。

終了②追加依頼の対応
予定よりも早く契約していた症例数に達した場合、製薬会社から追加で依頼がくることもあります。症例の追加ができれば、治験コーディネーターとして製薬会社や治験実施医療機関から期待される存在になるでしょう。

治験コーディネーターのやりがい

治験コーディネーターは、新薬の開発に携われることにやりがいを感じる人が多いです。新たな薬ができれば、その薬によって症状が改善される患者さんが増やせるからです。実は、ひとつの薬を開発するまでには、10~20年の歳月と約150~200億の膨大な費用がかかっています。新しい薬の開発は、簡単にできるものではありません。

治験コーディネーターは、そのような薬の開発に、治験現場で携われる職業です。製薬会社や被験者、治験実施医療機関の関係者など、さまざまな人たちの橋渡しを行う重要な役目を担います。新薬の開発の助けとなるように、滞りなく治験が進行した時には、世の中の役に立てた実感が得られるでしょう。

治験コーディネーターの想定年収

治験コーディネーターの年収は、厚生労働省の「令和3年賃金構造基本統計調査」結果によると、約423万円です。治験コーディネーターは、治験施設支援機関や医療機関に勤務していますが、勤務状況によって年収が異なります。

平均年収は約423万円ですが、掲載されている求人などを確認すると、500万円を超えている場合もあります。どの現場でどのように活躍するかで給与が異なるのが、治験コーディネーターの特徴です。

治験コーディネーターに求められる資質や能力とは?

笑顔で患者さんと話す治験コーディネーター

治験コーディネーターは、被験者や治験に関わる関係者との橋渡しとなる重要な存在です。間に立つ立場として、医師のサポートをするものとして、どのような資質や能力が求められるのでしょうか?ひとつずつ確認していきましょう。

コミュニケーション能力

治験コーディネーターは、製薬会社や医師、治験を実施する医療機関の担当者や被験者など、あらゆる人と接します。治験というひとつのプロジェクトを成功させるために、医師と医療機関、医師と被験者の間に立ち、サポートするのが治験コーディネーターの役目です。

被験者の不安を和らげるために話を聞き、重要事項を伝達する機会もあります。話しづらい人だと、被験者は心配ごとを伝えづらいものです。そのため、治験コーディネーターには、人と接するのが好きで、コミュニケーションを取るのが得意な人が求められます。

相手の立場にたって考えられる力

治験コーディネーターは人と人の橋渡しとなる存在のため、相手の立場にたって考えられる力が求められます。治験はさまざまな人と協力しながら行うため、それぞれの立場にたって物事を考える必要があります。

例えば、治験を依頼する製薬会社と治験に協力する被験者とでは、考えていることは異なるでしょう。製薬会社は新薬の開発につながるデータがほしいと思っています。そのため、有害事象もひとつのデータとして考えています。

被験者も新薬の開発の助けがしたいという思いはありますが、それと同時に「何かあったらどうしよう」という不安を抱えているものです。そのような被験者に対して、不安や困り事を聞く際に、「治験薬だから、何かあっても仕方ないよね」というスタンスで話しかけてしまうと、被験者は協力したい気持ちがなくなってしまうでしょう。

さまざまな立場の人たちと接するからこそ、治験コーディネーターには相手の気持ちを汲み取って、それぞれの立場を考えて行動する必要があります。

相手の立場にたって考えることは、なかなか難しいかもしれません。高校生の今のうちから、「自分が相手だったらなんて言うだろうか?」「自分が相手だったら、どういう気持ちになるだろうか?」と想像してみてください。友達や家族など身近な人から考えてみると、相手の立場にたって考えられるようになりますよ。

事務処理能力

治験コーディネーターは、治験実施計画書にもとづいて関係者の役割を決めたり、被験者の様子を確認して記録したり、症状報告書を作成したりします。治験全体の状況を把握して、書類作成のサポートや報告を行うため、事務処理能力が求められます。

また、被験者に治験の内容を説明する際は、わかりやすく被験者が安心して受けられるように噛み砕いて説明しなければなりません。専門用語を用いたり、難しい説明になってしまったりすると、被験者を混乱させてしまいます。ひとつの治験を終えるまでに考えることや、やるべきことがたくさんあるため、情報を正確に処理し、正しく記録して伝える力が求められるのです。

スケジュール管理能力

治験コーディネーターは、被験者のスケジュールを管理し、治験をスムーズに進められるようにサポートします。被験者一人ひとりの来院日や検査日、投薬予定日などを管理しなければならないため、スケジュール管理能力が求められます。

治験に協力してくれる被験者の数は多く、来院日や検査日が入れ違うと治験が上手く進みません。投薬予定日を間違えてしまうと、大変なことになります。そのため、治験コーディネーターには、スケジュール管理能力が欠かせません。

観察力

治験の現場では、被験者に有害事象が出るなどのイレギュラーが発生する場面もあります。時には、被験者の心の状態によって治験を中止せざるをえない時もあるでしょう。被験者をサポートする治験コーディネーターは、「辛そうにしている」「様子がおかしい」というように、被験者の状態をいち早く察知する力が求められます。そのためには、人の状態を良く観察し、違いに気づける観察力や気づく力が必要です。

被験者の心に寄り添う立場だからこそ、被験者が辛さを口に出す前に察知し、医師や適切な人に報告・相談できる人が求められます。

治験コーディネーターになるには?目指す大学と資格

治験で薬を飲もうとしてる人

治験コーディネーターになるには、治験施設支援機関に所属するパターンと、大学病院や研究センターなどの医療機関に薬剤師や看護師、臨床検査技師として所属し、「院内治験コーディネーター」としての業務を行う形の2つのパターンがあります。

治験コーディネーターになるために資格は必須ではありませんが、治験では医学知識や医療機器や医薬品への理解が求められます。そのため、前述した薬剤師や看護師、臨床検査技師の国家資格を持っている人や、勤務経験がある人が優遇されるのが現状です。

大学を卒業してすぐに治験コーディネーターとして働くならば、治験施設支援機関で就職する形になります。

治験コーディネーターを目指せる大学・学部

治験コーディネーターは、新薬の治験現場に関わる機会が多いため、薬学に関する基本的な知識を備えておくと現場で活かせます。そのため、薬科大学や薬学部のある大学を目指すとよいでしょう。薬剤師の資格取得を目指すならば、原則として6年制の学部・学科がある薬学課程を卒業する必要があります。薬剤師の資格や大学選びなど、詳しくはこちらの記事も参考にしてくださいね。
薬剤師になるための大学の選び方|就職先やキャリアプラン

治験コーディネーターを目指せる医療系資格

治験コーディネーターは臨床検査技師や看護師として医療機関に勤めながら、院内治験コーディネーターとして活躍することもできます。そのため、臨床検査技師や看護師の資格を持っておくと、治験コーディネーターを目指せます。

・臨床検査技師
臨床検査技師は、検査値の変動や異常値が出た時のことがわかるため、速やかに医師への報告が可能です。治験コーディネーターは、被験者に異常が起きた際の対応が求められるため、臨床検査技師としての知識やスキルが役立ちます。

臨床検査技師の詳しい仕事内容や、目指すための学校の選び方については以下の記事で紹介しています。合わせて読んでみてくださいね。

臨床検査技師になる方法は?仕事内容や学校の選び方

・看護師
看護師は患者さんと密接にコミュニケーションをとり、症状に関する理解があります。看護師になるための勉強をすると、患者さんのちょっとした変化にも気づきやすくなるため、治験コーディネーターとして、被験者をサポートする際に役立ちます。

看護師ってどういう仕事をする人なの?国家資格をとるためにはどうすればいいの?と気になる人は、以下の記事を読んでみてください。

看護師になるにはどうすれば良い?仕事内容や必要な資質

治験コーディネーターになりたいあなたは「JOB-BIKI」で進路検索!

治験コーディネーターを目指すならば、まずは今回紹介した関連する医療資格の取得を目指しましょう。治験コーディネーターは、さまざまな新薬の治験現場に携わるため、薬に関する知識を持っておくと役に立つでしょう。

どの道から治験コーディネーターを目指すのがいいか悩んでいる人は、「JOB-BIKI」の就職先検索で「病院」と検索すると就職先と、その病院に就職した先輩の卒業大学が見られますよ。まずは、高校生の今のうちから情報収集をして、興味のある分野から治験コーディネーターを目指しましょう。

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