言語聴覚士になるには?最短ルートや費用、目指せる大学も解説
2023.09.07
最終更新日: 2025.06.12

言語聴覚士を目指している人のなかには「最短ルートが知りたい」「目指せる大学を知りたい」という人が多くいます。しかし、言語聴覚士になるためのルートを正しく理解していないと、思わぬ遠回りをしかねません。言語聴覚士の国家試験は養成校でしか受験資格を得られないため、最初の進路選択が重要です。
この記事では、言語聴覚士になるためのルートを4つ紹介します。目指せる大学や学部もあわせて紹介するので進路選びの参考にしてください。言語聴覚士に最短でなるには、高校卒業後、養成校である3年制の短大か専門学校へ進学する方法です。
目次
言語聴覚士とは?
言語聴覚士は、言葉によるコミュニケーションに障がいのある人が、よりよい社会生活を送れるように支援する医療専門職です。専門的な検査のうえで、一人ひとりに最適なゴールを設定し、リハビリや訓練を実施します。
また、言語聴覚士は摂食嚥下(せっしょくえんげ)障がいといって、食べ物を食べて飲み込むことが難しい患者様にも対応します。食事ものどや口を使うため、言語と食事の機能障がいには関連性があると考えられているからです。言語聴覚士は、医療や介護の現場で中心的な役割を担っています。
言語聴覚士の7割は病院で働いています。病院には重症患者や緊急の医療ケアが必要な人を見る急性期病棟や退院するまでにリハビリが必要な人をケアする回復期病棟、老人病棟などさまざまな病棟があります。言語聴覚士はこれらの病棟で、障がいを抱える患者のサポートや指導を行うのが仕事です。
言語聴覚士になるには「言語聴覚士国家試験」に合格する必要がある

言語聴覚士になるためには、国家試験である「言語聴覚士国家試験」に合格し「言語聴覚士」の資格を取得する必要があります。令和6年度の試験合格率は72.4%で、例年60~70%を推移しています。
数字だけ見ると高い合格率に思えますが、受験者は養成校で専門的な教育を受けた人たちです。言語聴覚士の国家試験は養成校などで必要な単位を取得した人のみが受験できるため、独学での受験はできません。十分な教育を受けた人のみが受験する試験としては、60~70%という合格率は決して高くありません。
参考:第26回言語聴覚士国家試験の合格発表について|厚生労働省
国家試験の受験資格を得るには、専門知識と技能の習得が必須です。文部科学大臣指定の学校または都道府県知事指定の養成所を卒業することが条件となります。養成校に入学するためには高校卒業が最低条件です。
言語聴覚士を目指せるルート4つ

参考:言語聴覚士になるには|一般社団法人 日本言語聴覚士協会
言語聴覚士の国家試験を受けるには、4つのルートがあります。
- 言語聴覚士を目指せる4年制大学へ進学する
- 言語聴覚士を目指せる3年制の短大へ進学する
- 言語聴覚士を目指せる3~4年制の専門学校へ進学する
- 一般の4年制大学卒業者は、専攻科または専修学校(2年制)を卒業する
最短ルートは、2か3の3年制の短大か専修学校へ進学する方法です。各ルートにかかる費用についても解説します。
なお、本記事の内容は「一般社団法人 日本言語聴覚士協会」の情報を元に作成しており、2025年3月時点のものです。最新情報は随時更新されますので、公式サイトでご確認ください。
1.言語聴覚士を目指せる4年制大学へ進学する
言語聴覚士の受験資格が得られる4年制大学は、主に保健学部やリハビリテーション学部などに設置された言語聴覚学科などで学べます。
言語聴覚士を目指せる4年制の国公立大学は、県立広島大学の保健福祉学部(コミュニケーション障害学コース)のみで、学費は4年間で、約250万円です。
私立大学の4年間総額は約400〜500万円程度となります。専門学校や短大と比較すると、とくに私立大学の場合は総額で高くなる傾向があります。
2.言語聴覚士を目指せる3年制の短大へ進学する
短期大学では、4年制大学より1年短いため、基本的な知識と技術を習得してすぐに現場に出たい方に適しています。言語聴覚士を目指せる短期大学は、宮城県の仙台青葉学院短期大学 言語聴覚学科のみです。授業料は3年間で、445万円です。
参考:言語聴覚学科 納付金・学費支援制度|仙台青葉学院短期大学
私立大学の4年間総額は約400〜500万円程度となります。言語聴覚士を目指せる4年制の私立大学は、後ほど紹介します。
3.言語聴覚士を目指せる3~4年制の専門学校へ進学する
専門学校は言語聴覚士の国家資格取得と現場での活躍を目指した実践的な授業が特徴です。学費は3年制の場合、約250〜400万円、4年制の場合は約400〜600万円程度です。
4.一般の4年制大学卒業者は、専攻科または専門学校(2年制)を卒業する
すでに一般の4年制大学を卒業している方は、養成課程のある大学・大学院の専攻科または、2年制の専門学校を卒業することで国家試験の受験資格が得られます。
このルートは、とくに社会人経験者や他分野からの転職を考えている方に適しています。費用は、250万円程度が一般的です。
参考:言語聴覚学科 学費・授業料等|多摩リハビリテーション学院専門学校
言語聴覚士になるための勉強ができる大学・学部

言語聴覚士になるためにはさまざまなルートがありますが、体系的な学びと将来のキャリア形成を重視するなら4年制大学がおすすめです。幅広い教養と専門知識を備えることで、臨床現場での応用力が高まり、将来的に収入面でも有利になる可能性が高いためです。
言語聴覚士を目指せる大学の一例をまとめたので、参考にしてみてください。
【国公立】
県立広島大学の保健福祉学部(コミュニケーション障害学コース)(広島県)
【私立】
- 弘前医療福祉大学 保健学部 医療技術学科(青森県)
- 新潟医療福祉大学 リハビリテーション学部 言語聴覚学科(新潟県)
- 目白大学 保健医療学部 言語聴覚学科(東京都)
- 群馬パース大学 リハビリテーション学部 言語聴覚学科(群馬県)
- 森ノ宮医療大学 総合リハビリテーション学部 言語聴覚学科(大阪府)
- 京都先端科学大学 健康医療学部 言語聴覚学科(京都府)
- 姫路獨協大学 医療保健学部 言語聴覚療法学科(兵庫県)
- 熊本保健科学大学 保健科学部 リハビリテーション学科(熊本県)
ほかにも言語聴覚士を目指せる大学を知りたい人は「系統別学問内容リサーチ」で、「言語聴覚学科」や「リハビリテーション学科」で検索して大学を調べてみてください。
言語聴覚士の仕事内容

言語聴覚士の仕事内容は以下の通りです。
1:言語訓練
生まれつきや事故などによる脳の損傷で、言語やコミュニケーション面で障害を抱える人たちがいます。たとえば、失語症(しつごしょう)は、脳卒中や脳腫瘍などで大脳の言語中枢が損傷を受けたことで発症し、会話や読み書きが困難になる病気です。言語聴覚士は、患者様の状態に合わせて個別のゴールを設定し、話す練習や言語理解の指導を行います。
2:聴覚訓練
音や言葉が聞こえない、もしくは聞きとりにくい難聴の人を支えるのも言語聴覚士の仕事です。まずは、くわしい聴覚検査を行い、障害の種類や程度を確認します。そのうえで、一人ひとりに合った言語訓練や補聴器の選定などを行います。
3:嚥下(えんげ)訓練
加齢や病気の後遺症により、舌やあご、のどの筋肉が弱ったり、歯を失ったりしたことが原因で、食べ物をうまく噛めない、飲み込めないといった障害を「摂食嚥下障害」と言います。言語聴覚士は、食べることが困難な人のサポートも行います。具体的には、舌や口の筋肉を強化するエクササイズや食べ物を飲み込みやすくする方法を伝えます。
4:子どもの言語発達指導
難聴や知的障害、自閉症などにより、言語発達が同年齢の子どもよりも遅れる子どもたちがいます。言葉を理解しにくいことで、コミュニケーションがうまくいかないことも多いようです。言語聴覚士はこういった子どもたちの言葉の獲得や周囲との円滑なコミュニケーションを支援します。具体的には、文字や文法の指導・訓練や、保護者や保育士・学校の先生などと連携して環境を整えます。
言語聴覚士の仕事の流れ
言語聴覚士の仕事は職場によって異なります。ここでは、退院するまでにリハビリが必要な回復期病棟で働く言語聴覚士の1日のスケジュールを紹介します。
時間 | 業務 | 詳しい業務内容 |
8:30 | 出勤 | ・言語聴覚士、理学療法士。作業療法士などのリハビリスタッフによる朝のミーティング ・1日の予定確認や事務連絡 |
9:00 | 言語聴覚療法室にて言語聴覚療法を行う | ・失語症の患者様に対して1対1で聞き取り練習や会話練習を行う |
11:00 | 言語聴覚療法室にて高次脳機能障害の人への言語聴覚療法を行う | ・レクリエーションを通して交流しながら、訓練を行う |
12:00 | 患者様の病室をまわって摂食嚥下指導を行う | ・摂食嚥下障害のある人への食事の指導を行う |
13:00 | 昼食 | |
14:00 | カンファレンス | ・医師、看護師、リハビリ担当者との会議に出席する |
15:00 | 言語聴覚療法室にて失語症の人への言語聴覚療法を行う | ・言語聴覚療法室を訪れる患者様に対して1対1で訓練や指導を行う |
17:00 | 診療記録の作成 | ・その日実施した訓練内容などを記録する |
18:00 | 退勤 | ・明日のスケジュールを確認し、必要な準備を整えて退勤する |
業務終了後に、今後の訓練に使う教材の準備や、最新の知見を学ぶ勉強会が行われることもあります。
言語聴覚士の年収
厚生労働省の「言語聴覚士の年齢別の年収データ」によると、言語聴覚士の平均年収は430.7万円で、年齢別の平均年収は以下のとおりです。

引用:言語聴覚士の年齢別の年収データ(厚生労働省職業情報提供サイト)
上の図から、年齢別の平均年収をまとめました。
年齢 | 平均年収 |
20代 | 300~400万円 |
30~40代 | 400~500万円 |
40~50代 | 500~570万円 |
言語聴覚士に必要な資質と能力

言語聴覚士にはどのような資質や能力が求められるのでしょうか。ここでは、言語聴覚士にとくに重要な資質や能力を押さえておきましょう。
・相手に寄り添える人
言語聴覚士は、やさしい心で相手に寄り添う気持ちを持っている人に向いています。言語聴覚士がサポートするのは、言葉によるコミュニケーションがうまくいかない人たちです。思い通りに指導ができなかったり、リハビリに消極的な患者様もいたりするでしょう。患者様が「頑張ってみよう」と思えるように、常に患者様と同じ目線に立ち、敬意をもって接することが求められます。
・探求心のある人
言語聴覚士がサポートする患者様は、子どもからお年寄りまで幅広く、さらに障害の程度もさまざまです。そのため、一人ひとりに合った指導法を模索する探究心が必要です。たとえば、患者様が子どもなら、思わず声を出したくなるような遊びを取り入れることで、リハビリに前向きな気持ちを持ってもらえます。もちろん、楽しいだけではなく機能回復に役立つ必要があるため、最新の知見を学び続け、アプローチ方法を考え続ける探求心も必要です。
・粘り強い人
言語聴覚療法のリハビリは、長い年月をかけて改善をはかるもので、すぐ効果が見られるものではありません。なかなか改善が見られないと焦ってイライラしたり、落ち込んだりする患者様もいるでしょう。患者様の心の支えになるためには、言語聴覚士自身も根気強く関わっていく姿勢が必要です。
言語聴覚士になるために目指すべき就職先
言語聴覚士が対応する人は乳幼児から高齢者まで幅広く、その就職先もさまざまです。ここでは主な就職先として、以下の3つを紹介します。
・医療機関
言語聴覚士の約7割が大学病院やリハビリテーション専門病院、口腔外科などの医療機関で働いています。
・福祉機関
福祉機関には老人を対象とした、特別養護老人ホームやデイサービスセンターがあります。また、子どもを対象とした肢体不自由児施設や重症心身障害児施設などがあります。
・保健機関
保健機関には、介護老人保健施設やデイケアセンター、保健センターなどがあります。利用者が施設や自宅で安全に生活できるよう、施設内や利用者の自宅にて、摂食嚥下指導や言語指導などを行います。
保健所や保健センターに所属する言語聴覚士は、機能回復訓練ではなく相談業務を主に行います。言葉の遅れがある幼児の保護者や高齢者の摂食嚥下障害などの相談に乗ります。
言語聴覚士が活躍する幅広い職場の求人情報も取り扱う「医療キャリアナビ」では、医療機関や福祉・保健機関など、さまざまな職場への転職を専門スタッフがサポートしてくれます。
言語聴覚士の仕事のやりがい

言語聴覚士の仕事のやりがいは、以下のとおりです。
- 患者様と一緒に成功体験を味わえる
- 専門知識を活かして働ける
- 子どもの発達や成長に関われる
患者様と一緒に成功体験を味わえる
言語聴覚士は、病気や障がいにより「話す」「聴く」「食べる」といったことができない人をサポートします。リハビリや指導には長い年月がかかりスムーズにいかないことも多いのですが、そのぶん成果が見えたときの喜びは大きいです。ある患者様は、喉頭(こうとう)がんで、声帯を含む喉頭を摘出し、はっきりと声が出せなくなりました。入院中の訓練だけでは思うように回復しなかったため、退院後も通院し2年間前向きにリハビリを行った結果、ようやく声によって不自由のないコミュニケーションが取れるまでに回復したそうです。患者様と一緒に達成感を味わえるのは、言語聴覚士の1番のやりがいと言えるでしょう。
専門知識を活かして働ける
言語聴覚士は国家試験に合格して、資格を取得した人のみが名乗れる国家資格です。言語・聴覚分野のスペシャリストとして、医療や福祉の現場を中心に幅広く活躍できます。言語聴覚士の有資格者は多くないため、職場によっては言語聴覚士が1人しか配置されないこともあります。貴重な専門知識をもった人として周囲から頼られるので、やりがいをもって働けるでしょう。
子どもの発達や成長に関われる
言語聴覚士は、以下のような子どもの言語指導・摂食嚥下指導も行います。
- 脳性まひなどで生まれつき体が不自由で知的障がいのある子
- 言葉の発達が遅れている子
- 障がいによりうまくご飯が飲み込めない子
障がいをもった子たちとその親が、自信をもって充実した生活を送れるようにサポートできるのも、やりがいの1つです。
言語聴覚士になった後のキャリアプラン
言語聴覚士のキャリアプランとして、2つ紹介します。
・栄養サポートチーム(NST)に参加する
NSTとは、患者様の栄養状態を評価し、適切な栄養サポートを提供するチームで、医師や看護師、言語聴覚士などさまざまな専門家から構成されます。NSTでの言語聴覚士の役割は、患者様に適切な食形態や栄養管理の方法を提案することです。ほかの医療専門家たちと関わりながら患者様の健康をサポートする経験は、多くの新たな知識を獲得する機会にもなります。
・作業療法士や理学療法士の資格を取得する
超高齢化社会である現代では、介護リハビリや通所リハビリなどの需要が高まっています。作業療法士や理学療法士の資格も取得すれば、患者様一人ひとりに合ったケアを提供しやすくなり、医療チーム内での需要も高まるでしょう。
言語聴覚を目指す人のよくある質問

言語聴覚士を目指す人によくある質問は、以下のとおりです。
- 言語聴覚士は通信教育や独学でも目指せる?
- 言語聴覚士と理学療法士・作業療法士との違い
- 言語聴覚士の将来性は?
参考にしてみてください!
言語聴覚士は通信教育や独学でも目指せる?
言語聴覚士は通信教育や独学だけでは目指せません。国家試験の受験資格を得るためには、文部科学大臣が指定する学校または都道府県知事が指定する養成所を卒業することが必須条件です。
言語聴覚士と理学療法士・作業療法士との違い
言語聴覚士、作業療法士、理学療法士は、すべてリハビリテーション専門職ですが、仕事内容は異なります。言語聴覚士は、言葉によるコミュニケーションや食べ物を飲み込むことに障がいのある人を支援します。
理学療法士は、病気やけがなどで障がいを抱えた人の運動能力を改善させる仕事です。運動療法や歩行訓練、筋力訓練などを通して日常生活で基本となる、歩く・座るなどの身体機能のリハビリを行います。理学療法士の患者様の中には脳卒中などの病気により、言語障がいを抱える人もいます。その場合は、患者様の状態を見て医療チームの判断により、言語聴覚士が理学療法士と同時にアプローチするか、理学療法のあとに適切なタイミングで指導にあたります。
作業療法士は、理学療法で日常動作ができるまでに回復した患者様を対象に、社会復帰に向けた応用動作を回復させるのが仕事です。作業療法士は、運動機能の改善だけでなく、精神的なリハビリも行うのが特徴です。
作業療法士の仕事内容やなり方について詳しく知りたい人は、以下の記事を参考にしてみてください。
参考記事:作業療法士になる方法は?求められるスキルや働く場所
言語聴覚士の将来性は?
言語聴覚士は、病院や施設内で障がい者を支援することが多かったのですが、近年では介護分野での需要も高まっています。日本は現在、超高齢化社会なうえ平均寿命も長くなっており、将来、介護に携わる人が不足する可能性が高いです。また、介護にかかる費用が膨大になり、一人ひとりに十分なケアができなくなる心配もあります。
そこで厚生労働省では、2025年までに「地域包括ケアシステム」を実現しようと取り組んでいます。地域包括ケアシステムとは、高齢者が重度の要介護状態になっても、住み慣れた地域で暮らせるような仕組み作りのことです。この事業のなかにはリハビリ活動支援が含まれており、言語聴覚士の積極的な関りが求められています。今後、病院だけでなく地域社会でも言語聴覚士の需要は高まっていくでしょう。
(まとめ)言語聴覚士を「JOB-BIKI」で検索しよう
言語聴覚士は、「話す」「聴く」「食べる」機能を回復させる職業です。リハビリテーション医療の担い手として、幼児から高齢者まで幅広い人たちを支援できる、やりがいのある職業です。
言語聴覚士になるためにどのような大学を選べばいいのか迷っている方は「JOB-BIKI」を活用してみてください。「JOB-BIKI」の就職先検索で「リハビリテーション病院」などと検索すると、言語聴覚士として活躍している人たちの出身大学がわかります。ぜひ、進路選びの参考にしてくださいね。