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言語聴覚士になるには?仕事内容や求められる資質と能力を紹介

2023.09.07

カテゴリー:
カルテを持つ言語聴覚士

言語聴覚士とは、話すことや聞くこと、食べることといった、社会生活を送っていくために欠かせない機能を回復させる仕事です。リハビリテーションの専門職として、子どもからお年寄りまで幅広い人をサポートできるやりがいのある仕事です。
この記事では、言語聴覚士の仕事内容や現実的な働き方、なるための方法を紹介します。言語聴覚士に求められる資質や能力についても解説するので、参考にしてくださいね。

言語聴覚士とは?

リハビリを行う言語聴覚士

言語聴覚士は、言葉によるコミュニケーションに障害のある人が、よりよい社会生活を送れるように支援する医療専門職です。専門的な検査のうえで、一人ひとりに最適なゴールを設定し、リハビリや訓練を実施します。

また、言語聴覚士は摂食嚥下(せっしょくえんげ)障害といって、食べ物を食べて飲み込むことが難しい患者様にも対応します。食事ものどや口を使うため、言語と食事の機能障害には関連性があると考えられているからです。言語聴覚士は、医療や介護の現場で中心的な役割を担っています。

言語聴覚士の7割は病院で働いています。病院には重症患者や緊急の医療ケアが必要な人を見る急性期病棟や退院するまでにリハビリが必要な人をケアする回復期病棟、老人病棟などさまざまな病棟があります。言語聴覚士はこれらの病棟で、障害を抱える患者のサポートや指導を行います。

言語聴覚士と理学療法士・作業療法士との違い

言語聴覚士、作業療法士、理学療法士は、すべてリハビリテーション専門職ですが、仕事内容は異なります。言語聴覚士は、言葉によるコミュニケーションや食べ物を飲み込むことに障害のある人を支援します。

理学療法士は、病気やけがなどで障害を抱えた人の運動能力を改善させる仕事です。運動療法や歩行訓練、筋力訓練などを通して日常生活で基本となる、歩く・座るなどの身体機能のリハビリを行います。

理学療法士の患者様の中には脳卒中などの病気により、言語障害を抱える人もいます。その場合は、患者様の状態を見て医療チームの判断により、言語聴覚士が理学療法士と同時にアプローチするか、理学療法のあとに適切なタイミングで指導にあたります。
作業療法士は、理学療法で日常動作ができるまでに回復した患者様を対象に、社会復帰に向けた応用動作を回復させるのが仕事です。作業療法士は、運動機能の改善だけでなく、精神的なリハビリも行うのが特徴です。
作業療法士の仕事内容やなり方について詳しく知りたい人は、以下の記事を参考にしてみてください。
参考記事:作業療法士になる方法は?求められるスキルや働く場所

言語聴覚士の仕事内容

言語聴覚士の仕事内容は以下の通りです。
1:言語訓練
生まれつきや事故などによる脳の損傷で、言語やコミュニケーション面で障害を抱える人たちがいます。たとえば、失語症(しつごしょう)は、脳卒中や脳腫瘍などで大脳の言語中枢が損傷を受けたことで発症し、会話や読み書きが困難になる病気です。言語聴覚士は、患者様の状態に合わせて個別のゴールを設定し、話す練習や言語理解の指導を行います。

2:聴覚訓練
音や言葉が聞こえない、もしくは聞きとりにくい難聴の人を支えるのも言語聴覚士の仕事です。まずは、くわしい聴覚検査を行い、障害の種類や程度を確認します。そのうえで、一人ひとりに合った言語訓練や補聴器の選定などを行います。

3:嚥下(えんげ)訓練
加齢や病気の後遺症により、舌やあご、のどの筋肉が弱ったり、歯を失ったりしたことが原因で、食べ物をうまく噛めない、飲み込めないといった障害を「摂食嚥下障害」と言います。言語聴覚士は、食べることが困難な人のサポートも行います。具体的には、舌や口の筋肉を強化するエクササイズや食べ物を飲み込みやすくする方法を伝えます。

4:子どもの言語発達指導
難聴や知的障害、自閉症などにより、言語発達が同年齢の子どもよりも遅れる子どもたちがいます。言葉を理解しにくいことで、コミュニケーションがうまくいかないことも多いようです。言語聴覚士はこういった子どもたちの言葉の獲得や周囲との円滑なコミュニケーションを支援します。具体的には、文字や文法の指導・訓練や、保護者や保育士・学校の先生などと連携して環境を整えます。

言語聴覚士の仕事のやりがい

老人ホームで働く言語聴覚士

言語聴覚士の仕事のやりがいには、以下のようなものが挙げられます。

・患者様と一緒に成功体験を味わえる
言語聴覚士は、病気や障害により「話す」「聴く」「食べる」といったことができない人をサポートします。リハビリや指導には長い年月がかかりスムーズにいかないことも多いのですが、そのぶん成果が見えたときの喜びは大きいです。ある患者様は、喉頭(こうとう)がんで、声帯を含む喉頭を摘出し、はっきりと声が出せなくなりました。入院中の訓練だけでは思うように回復しなかったため、退院後も通院し2年間前向きにリハビリを行った結果、ようやく声によって不自由のないコミュニケーションが取れるまでに回復したそうです。患者様と一緒に達成感を味わえるのは、言語聴覚士の1番のやりがいと言えるでしょう。

・専門知識を活かして働ける
言語聴覚士は国家試験に合格して、資格を取得した人のみが名乗れる国家資格です。言語・聴覚分野のスペシャリストとして、医療や福祉の現場を中心に幅広く活躍できます。言語聴覚士の有資格者は多くないため、職場によっては言語聴覚士が1人しか配置されないこともあります。貴重な専門知識をもった人として周囲から頼られるので、やりがいをもって働けるでしょう。

・子どもの発達や成長に関われる
言語聴覚士は、以下のような子どもの言語指導・摂食嚥下指導も行います。

  • 脳性まひなどで生まれつき体が不自由で知的障害のある子
  • 言葉の発達が遅れている子
  • 障害によりうまくご飯が飲み込めない子

障害を持った子たちとその親が、自信をもって充実した生活を送れるようにサポートできるのも、やりがいの1つです。

言語聴覚士の仕事の流れ

言語聴覚士の仕事は職場によって異なります。ここでは、退院するまでにリハビリが必要な回復期病棟で働く言語聴覚士の1日のスケジュールを紹介します。

時間業務詳しい業務内容
8:30出勤  ・言語聴覚士、理学療法士。作業療法士などのリハビリスタッフによる朝のミーティング ・1日の予定確認や事務連絡
9:00言語聴覚療法室にて言語聴覚療法を行う・失語症の患者様に対して1対1で聞き取り練習や会話練習を行う
11:00言語聴覚療法室にて高次脳機能障害の人への言語聴覚療法を行う・レクリエーションを通して交流しながら、訓練を行う
12:00患者様の病室をまわって摂食嚥下指導を行う・摂食嚥下障害のある人への食事の指導を行う
13:00昼食 
14:00カンファレンス・医師、看護師、リハビリ担当者との会議に出席する
15:00言語聴覚療法室にて失語症の人への言語聴覚療法を行う・言語聴覚療法室を訪れる患者様に対して1対1で訓練や指導を行う
17:00診療記録の作成・その日実施した訓練内容などを記録する
18:00退勤・明日のスケジュールを確認し、必要な準備を整えて退勤する

 業務終了後に、今後の訓練に使う教材の準備や、最新の知見を学ぶ勉強会が行われることもあります。

言語聴覚士の年収

厚生労働省の「言語聴覚士の年齢別の年収データ」によると、言語聴覚士の平均年収は430.7万円で、年齢別の平均年収は以下のとおりです。

引用:言語聴覚士の年齢別の年収データ(厚生労働省職業情報提供サイト)

上の図から、年齢別の平均年収をまとめました。

年齢平均年収
20代300~400万円
30~40代400~500万円
40~50代500~570万円

言語聴覚士に必要な資質と能力

子どものリハビリを行う言語聴覚士

言語聴覚士にはどのような資質や能力が求められるのでしょうか。ここでは、言語聴覚士にとくに重要な資質や能力を押さえておきましょう。

・相手に寄り添える人
言語聴覚士は、やさしい心で相手に寄り添う気持ちを持っている人に向いています。言語聴覚士がサポートするのは、言葉によるコミュニケーションがうまくいかない人たちです。思い通りに指導ができなかったり、リハビリに消極的な患者様もいたりするでしょう。患者様が「頑張ってみよう」と思えるように、常に患者様と同じ目線に立ち、敬意をもって接することが求められます。

・探求心のある人
言語聴覚士がサポートする患者様は、子どもからお年寄りまで幅広く、さらに障害の程度もさまざまです。そのため、一人ひとりに合った指導法を模索する探究心が必要です。たとえば、患者様が子どもなら、思わず声を出したくなるような遊びを取り入れることで、リハビリに前向きな気持ちを持ってもらえます。もちろん、楽しいだけではなく機能回復に役立つ必要があるため、最新の知見を学び続け、アプローチ方法を考え続ける探求心も必要です。

・粘り強い人
言語聴覚療法のリハビリは、長い年月をかけて改善をはかるもので、すぐ効果が見られるものではありません。なかなか改善が見られないと焦ってイライラしたり、落ち込んだりする患者様もいるでしょう。患者様の心の支えになるためには、言語聴覚士自身も根気強く関わっていく姿勢が必要です。

言語聴覚士になるための方法とは?

言語聴覚士になるための勉強ができる大学

言語聴覚士になるには、具体的にどのようなルートがあるのでしょうか?言語聴覚士になるための方法について解説します。

言語聴覚士の世界の現状

言語聴覚士は、病院や施設内で障害者を支援することが多かったのですが、近年では介護分野での需要も高まっています。日本は現在、超高齢化社会なうえ平均寿命も長くなっており、将来、介護に携わる人が不足する可能性が高いです。また、介護にかかる費用が膨大になり、一人ひとりに十分なケアができなくなる心配もあります。

そこで厚生労働省では、2025年までに「地域包括ケアシステム」を実現しようと取り組んでいます。地域包括ケアシステムとは、高齢者が重度の要介護状態になっても、住み慣れた地域で暮らせるような仕組み作りのことです。この事業の中にはリハビリ活動支援が含まれており、言語聴覚士の積極的な関りが求められています。今後、病院だけでなく地域社会でも言語聴覚士の需要は高まっていくでしょう。

言語聴覚士になるための勉強ができる大学・学部

言語聴覚士になるためには「言語聴覚士国家試験」に合格する必要があります。試験は誰でも受けられるわけではなく「言語聴覚士国家試験の受験資格」を満たした人しか受けられません。高校生のみなさんが最短で受験資格を得るには、言語聴覚士の養成学校を卒業するのが良いでしょう。

言語聴覚士を目指せる養成学校の一例をまとめたので、参考にしてみてください。

  • 弘前医療福祉大学 保健学部 医療技術学科(青森県)
  • 新潟医療福祉大学 リハビリテーション学部 言語聴覚学科(新潟県)
  • 目白大学 保健医療学部 言語聴覚学科(東京都)
  • 群馬パース大学 リハビリテーション学部 言語聴覚学科(群馬県)
  • 京都先端科学大学 健康医療学部 言語聴覚学科(京都府)
  • 姫路獨協大学 医療保健学部 言語聴覚療法学科(兵庫県)
  • 熊本保健科学大学 保健科学部 リハビリテーション学科(熊本県)

言語聴覚士に必要な資格や受験すべき試験

言語聴覚士になるためには、国家試験である「言語聴覚士国家試験」に合格し「言語聴覚士」の資格を取得する必要があります。2023年度の試験合格率は67.4%で、例年60~70%を推移しています。

数字だけ見ると高いように思われますが、受験者はみな養成校でしっかり学んだ人ばかりです。完全独学で受けられる試験ではないので、合格率が高いといえるでしょう。

参考:2023年 言語聴覚士国家試験結果|旺文社教育情報センター (obunsha.co.jp)

言語聴覚士になるために目指すべき就職先

言語聴覚士が対応する人は乳幼児から高齢者まで幅広く、その就職先もさまざまです。ここでは主な就職先として、以下の3つを紹介します。

・医療機関
言語聴覚士の約7割が大学病院やリハビリテーション専門病院、口腔外科などの医療機関で働いています。

・福祉機関
福祉機関には老人を対象とした、特別養護老人ホームやデイサービスセンターがあります。また、子どもを対象とした肢体不自由児施設や重症心身障害児施設などがあります。

・保健機関
保健機関には、介護老人保健施設やデイケアセンター、保健センターなどがあります。利用者が施設や自宅で安全に生活できるよう、施設内や利用者の自宅にて、摂食嚥下指導や言語指導などを行います。

保健所や保健センターに所属する言語聴覚士は、機能回復訓練ではなく相談業務を主に行います。言葉の遅れがある幼児の保護者や高齢者の摂食嚥下障害などの相談に乗ります。

言語聴覚士になった後のキャリアプラン

言語聴覚士のキャリアプランとして、2つ紹介します。

・栄養サポートチーム(NST)に参加する
NSTとは、患者様の栄養状態を評価し、適切な栄養サポートを提供するチームで、医師や看護師、言語聴覚士などさまざまな専門家から構成されます。NSTでの言語聴覚士の役割は、患者様に適切な食形態や栄養管理の方法を提案することです。ほかの医療専門家たちと関わりながら患者様の健康をサポートする経験は、多くの新たな知識を獲得する機会にもなります。

・作業療法士や理学療法士の資格を取得する
超高齢化社会である現代では、介護リハビリや通所リハビリなどの需要が高まっています。作業療法士や理学療法士の資格も取得すれば、患者様一人ひとりに合ったケアを提供しやすくなり、医療チーム内での需要も高まるでしょう。

(まとめ)言語聴覚士を「JOB-BIKI」で検索しよう

言語聴覚士は、「話す」「聴く」「食べる」機能を回復させる職業です。リハビリテーション医療の担い手として、幼児から高齢者まで幅広い人たちを支援できる、やりがいのある職業です。

言語聴覚士になるためにどのような大学を選べばいいのか迷っている方は「JOB-BIKI」を活用してみてください。「JOB-BIKI」の就職先検索で「リハビリテーション病院」などと検索すると、言語聴覚士として活躍している人たちの出身大学がわかります。ぜひ、進路選びの参考にしてくださいね。

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