歯学部とは?医学部との違いやカリキュラム内容、向いている人を解説
2025.08.04

「歯学部って何を学ぶの?」
「将来の仕事は歯科医師のみ?」
と、進路選びで不安や疑問を抱えている方もいるでしょう。
歯学部についてよく知らないまま進路選択をしてしまうと、入学後に「実習が想像以上に大変」「自分には向いていないかも」と後悔する可能性があります。進路を決める前にしっかりと情報を知ることが大切です。
この記事では、歯学部で学ぶ内容や卒業後の進路、歯科医師の収入事情などを解説しています。歯学部が向いている人も紹介しているため、自分に合っているかを見極めるヒントが得られるでしょう。
「医療の仕事に興味がある」「国家資格を取って安定した将来を目指したい」という方は、ぜひ進路選択の参考にしてください。
目次
歯学部とは

歯学部の学びや、属している学科などについて解説します。
歯学部とは何を学ぶところか
歯学部は、歯や口腔に関する知識と技術を修得し、歯科医療の専門家としての資質を養う学部です。虫歯や歯周病などの治療に加えて、噛む・話すといった機能の改善、美しさに配慮した審美歯科、さらには全身の健康と口腔の関係を解明する研究など、幅広く学びます。
歯科医療は身体だけでなく心のケアも求められる分野なので、患者と信頼関係を築くためのコミュニケーションスキルも欠かせません。歯学部では、科学的な知識と高度な技術、そして豊かな人間性をバランスよく養っていきます。
歯学部に属している主な学科
歯学部に属している主な学科と特徴は、以下のとおりです。
【歯学部に属している学科と特徴】
学科名 | 特徴 |
歯学科 | ・歯科医師を養成する学科 ・6年制 ・医学的知識と専門技術を身につける |
口腔保健学科 | ・歯科衛生士を目指せる ・4年制 ・歯のクリーニングや口腔ケア指導を専門に学ぶ |
口腔健康科学科 | ・歯科衛生士・歯科技工士を目指せる ・4年制 ・工学から生物学までの幅広い知識と技術を身につける |
歯学部を設置している多くの大学では、歯科医師を目指すための6年制カリキュラムが導入されています。一部の大学では、歯科衛生士や歯科技工士を養成する学科も併設されています。
いずれの学科も、歯に関する専門的な知識と技術を身につけ、将来の歯科医療を担う人材を育てることが目的です。
上記の学科以外にも、大学によってさまざまな特色ある学科が設置されています。自分の関心に合った学科を見つけるために、複数の大学情報を比較検討しましょう。
医学部との違い
医学部は全身のあらゆる臓器や疾患を対象とし、診断から治療、予防までを包括的に学びます。一方、歯学部は口腔内や顎、顔面領域に特化し、虫歯や歯周病の治療、義歯の製作、口腔外科手術など、高度な手技と精密性が求められる歯科医療の専門家を養成します。
歯学部では、口腔が全身の一部であるため、医学部の基礎分野も学びますが、口腔に特化した独自の専門性と技術の習得に重きを置いています。
近年では、医科歯科連携の重要性が増しており、全身疾患を持つ患者への歯科治療や、口腔内の状態が全身疾患に与える影響など、より包括的な視点での学習が必要です。
医師については、以下の記事で詳しく解説しています。
医師(医者)になるためにはどのような学部を選ぶ?向いている人ややりがい
歯学科の学び

歯学科のカリキュラムや実習、医学部との違いについて紹介します。
歯学科のカリキュラム概要
歯科医師を目指せる歯学科のカリキュラムでは、6年間で必要科目を履修します。基礎から応用、医療現場での臨床実習へと段階的に知識と技術を習得でき、知識と技術をバランスよく身につけられるのが特徴です。
カリキュラムは以下のとおりです。
【1〜2年次】
歯の専門知識を学ぶための土台作りとして、以下のような基礎科目を学びます。
● 生化学や物理、数学などの理系科目
● 歯の形態学や全身解剖学、歯科病理学など、人体や疾患の理解に欠かせない学び
この時期には、医療従事者として欠かせないコミュニケーション能力や豊かな人間性を育む教育も行われます。人体の構造や働きについて学ぶ点では、医学部と共通する領域も多くあります。
【3〜4年次】
1~2年次の基礎知識を活かし、以下のような専門的な学びへと進みます。
● 歯周病学、歯科麻酔学、小児歯科学、歯科矯正学、口腔外科学などの専門科目
● 実際の治療に必要な基本技術の実習
歯科医療の全体像を把握し、治療技術の基礎を確実に身につけます。
【5〜6年次】
これまでに培った知識と技術を実践の場で活かす段階に入ります。診療参加型臨床実習を通じて実際の患者と接しながら診療の流れを体験し、医療現場で求められる応用力を養っていきます。
6年生になると歯科医師国家試験に向けた対策も本格化し、歯科医師として必要な総合力を仕上げる大切な時期となります。
このように、歯学科では6年間をとおして段階的に学びを積み重ねていきます。
歯学科の主な実習内容
歯学科では専門知識を学ぶ座学だけでなく、多くの実習がカリキュラムに組み込まれ、実践力の養成が重視されています。主な実習内容は、以下のとおりです。
● 歯科用器具や材料の使い方に関する実習
● 歯型彫刻演習
● レントゲン撮影
● 歯石除去や詰め物の形成
● 歯科矯正学実習
● 外科的処置(抜歯など)のシミュレーション
歯学科では1年生から実習が始まります。歯と歯周組織を顕微鏡で観察したり、入れ歯の制作や問診を体験したりすることで、歯科医療を学ぶ土台を築きます。2年生に進むと、歯型彫刻演習や歯科矯正といった専門的な技術を、模型やシミュレーターを使って習得していきます。
十分なトレーニングを重ねたのち、5年生からは歯学部附属病院などの医療現場において、診療チームの一員として実際の患者と関わる臨床実習に進みます。6年間で段階的に知識と技術を現場で応用する力が養われるでしょう。
歯学部卒業後に目指せる資格

歯学部で目指せる資格は以下のとおりです。
【歯学部卒業後に目指せる資格】
学科 | 目指せる資格 | 備考 |
歯学科 (6年制) | ・歯科医師国家試験受験資格 | |
・食品衛生管理者 ・衛生管理者 | ・歯科医師国家資格の資格取得と同時に得られる | |
・臨床検査技師 ・介護支援専門員 ・労働衛生コンサルタント | ・歯科医師国家資格を取得すると、受験資格の付与や試験の一時免除がある | |
口腔保健学科 口腔健康科学科 など (4年制) | ・歯科衛生士国家試験受験資格 ・養護教諭一種免許状 ・歯科技工士国家試験受験資格 ・フェイシャルセラピスト資格認定 ・細胞工学士資格認定 | ・それぞれの専攻課程を修了する必要がある |
歯学部生は、多くが国家試験に合格し歯科医師や歯科衛生士、歯科技工士になることを目指しています。試験は卒業年の2月または3月に実施され、受験するには必要な課程を修了し、卒業見込みであることが条件です。
このように、歯学部で目指せる資格は口腔医療の分野にとどまらず、幅広い専門領域への道を開いてくれるでしょう。
歯科医師については、以下の記事で詳しく解説しています。
歯科医師になるには何年かかる?目指せる大学や費用を解説
歯学部生の卒業後の進路

歯学部卒業生の多くは、取得した資格を活かせる職種へと進みます。主な進路は以下のとおりです。
【歯学科の主な就職先と内容】
就職先 | 内容 |
個人歯科医院 | ・地域に密着した診療所で、虫歯治療や予防歯科など一般歯科の診療を行う ・独立開業を目指すケースも多い |
総合病院の歯科・口腔外科部門 | ・外科的処置を含む専門的な治療に携わる |
大学等の研究機関 | ・口腔に関する基礎 ・臨床研究や教育に従事 ・大学院へ進学して研究者・教育者としての道を歩む場合もある |
行政機関 | ・保健所や自治体で、公衆衛生業務や歯科保健指導、医療行政の企画・運営に関わる ・歯科医療の専門家としての視点が求められる |
企業 | ・歯科医療機器メーカーや製薬会社などで、商品開発・学術支援 ・営業に関わる ・歯科の専門知識を活かした職種が中心 |
歯学科の6年間のカリキュラムを修了し歯科医師国家試験に合格したあと、1年間の臨床研修を経て歯科医の第一歩を踏み出せます。まず勤務医として実務経験を積み、将来的には独立して開業医を目指すケースもあります。
近年では、訪問歯科や高齢者歯科、矯正歯科などの新しい分野でも活躍の場が広がっており、社会のニーズに応じた多様なキャリアが開かれています。さらに、歯科医療の専門知識を活かし、行政機関や企業などで活躍する道を選ぶ人も増えてきました。
【口腔保健学科・口腔健康科学科などの主な就職先と内容】
就職先 | 内容 |
歯科医院・大学病院 | ・歯科衛生士として歯科診療の補助をする |
企業 | ・歯ブラシやマウスピースなどの歯科関連企業や製薬会社などに就職 ・歯科衛生士・歯科技工士の資格を活かした商品開発や営業に関わる |
行政機関 | ・自治体で住民の口腔保健向上のための企画立案や健康教育をする |
教育機関 | ・養護教諭として応急手当や保健指導などを行う |
大学(教員) | ・学生への講義や実習指導、研究活動などを行う |
病院技工室や技工所 | ・歯科技工士として被せ物や手術支援模型などの開発・制作をする |
口腔保健学科・口腔健康科学科を卒業した人の多くは、歯科衛生士や歯科技工士として医療現場で活躍するだけでなく、商品開発や保健指導、研究・教育分野への道もあります。近年は高齢者施設や歯科衛生士養成校での勤務など、専門性を活かした多様なキャリアパスが広がっています。
歯学部に向いている人の特徴

歯学部に向いている人の特徴は、以下のとおりです。
● 細かい作業が得意で、集中力がある人
● 人と接することが好きで、コミュニケーション能力が高い人
● 忍耐力がある人
それぞれ解説します。
細かい作業が得意で、集中力がある人
歯学部では、歯の構造や治療技術について精密な知識と技術を習得します。実習では1mm以下の繊細な作業が求められることもあり、細かい作業に抵抗がなく、集中力を維持して丁寧に取り組める人が向いています。
地道な努力を積み重ねることができる姿勢も、大きな強みとなるでしょう。
人と接することが好きで、コミュニケーション能力が高い人
歯学部では、知識や技術だけでなく、患者との関わり方も学んでいきます。人と接するのが好きで、相手の気持ちに配慮したコミュニケーションができる人は、学びの中でもその力を活かせるでしょう。
相手に寄り添う姿勢や思いやりのある対応は、チーム医療や医療現場での実習においても大いに役立ちます。
忍耐力がある人
歯学部では座学と実習で学びながら、国家試験に向けて力をつけていきます。途中で投げ出さず、努力を積み重ねられる人ほど目標に近づけるでしょう。長期間にわたり粘り強く学ぶ姿勢が欠かせません。
歯学部を設置している大学

歯学部を設置している大学を国公立と私立に分けて紹介します。
【国公立】
- 北海道大学 歯学部(北海道)
- 東北大学 歯学部(宮城県)
- 東京科学大学 歯学部(東京都)
- 広島大学 歯学部(広島県)
- 長崎大学 歯学部(長崎県)
【私立】
- 愛知学院大学 歯学部(愛知県)
- 大阪歯科大学 歯学部(大阪府)
- 日本大学 歯学部(東京都)
ほかにも歯学部を設置している大学を知りたい人は、逆引き大学辞典の「系統別学問内容リサーチ」を活用してみてください。
歯学部を設置している大学がわかるので、進路選びの参考になります。
>>歯学部のある大学を見てみる
歯学部で行われている研究
歯学部では、どのような研究が行われているのでしょうか。例として、福岡歯科大学で行われた「喫煙による舌苔細菌叢の変化が口臭に及ぼす影響」について紹介します。
平均年齢約26歳の健康な成人ボランティア50名(男性39名、女性11名)を対象に、唾液と舌苔(ぜったい;舌に付着した白い汚れ)に含まれる菌叢(きんそう;細菌の集団)を解析しました。さらに唾液中の免疫系バイオマーカー(免疫に関する物質の量)を測定して、喫煙者と非喫煙者の違いを比較しました。
その結果、喫煙者の口の中には、歯周病や口臭に関係している細菌の割合が高いことがわかりました。
また、唾液に含まれる免疫系バイオマーカーのうち、体内の炎症に関わる物質が、非喫煙者に比べて喫煙者の方が多くなっていました。さらに、喫煙期間が長く1日の喫煙本数が多い人ほど、炎症を引き起こす物質との関係が強いこともわかっています。
歯学部に関するよくある質問
歯学部に関するよくある質問として、以下の2つを解説します。
● 歯科医師と歯科衛生士・歯科技工士との違いは?
● 歯科医師の年収・収入事情は?
歯科医師と歯科衛生士・歯科技工士との違いは?
歯科医師と歯科衛生士・歯科技工士の違いは次の表のとおりです。
【歯科医師・歯科衛生士・歯科技工士の違い】
職種 | 主な業務内容 | 資格 | 患者への直接処置 |
歯科医師 | ・診断 ・歯を削る・抜くなどの外科的処置 ・詰め物・被せ物の装着 ・矯正治療 など | 歯科医師免許 | あり |
歯科衛生士 | ・予防処置 ・診療補助 ・保健指導 | 歯科衛生士免許 | あり (治療行為は不可) |
歯科技工士 | ・歯科技工物(入れ歯や被せ物、矯正装置など)の製作・加工 | 歯科技工士免許 | なし |
歯科医師は、虫歯や歯周病の治療、口腔外科手術など、歯や口の中に関する幅広い診療を行います。一方、歯科衛生士の役割は歯科医師のサポートや、定期健診時の歯のクリーニング、正しい歯磨きの方法を指導するなど、予防の観点から患者の口腔健康を支えることです。
歯学部の中に歯科衛生士や歯科技工士を育成する学科を設けている大学もあります。
歯科衛生士について気になる方は、こちらをご確認ください。
歯科衛生士になる方法|向いている人やキャリアプラン
歯学部の年収・収入事情は?
歯学部は「安定した収入が期待できる職業を目指す学部」として注目されています。
歯科医師の年収は全国平均で約924.3万円で、となって専門性の高い自由診療(インプラント・矯正・審美歯科など)の技術を身につけることで、収入アップを目指せます。
また歯科衛生士の平均年収は405.6万円、歯科技工士は454.4万円です。その他、歯学の専門知識を活かした歯科関連企業の研究開発職や営業職、医療機器メーカー、行政機関などでは、個人の能力や企業の規模によって年収は大きく変動します。
全体として専門知識を活かせる職種が多く、比較的収入が安定しているといえるでしょう。こうした背景から、歯学部は長期的なキャリアを見据えて進学を考える人にとって、魅力的な選択肢となっています。
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歯学部は、虫歯や歯周病などの治療だけでなく、全身の健康に直結する「口のケア」を専門的に学ぶ学部です。
歯科医師を目指す6年間では、基礎医学から専門的な知識・技術、さらに臨床実習まで段階的に習得します。卒業後は取得した資格を活かして、開業歯科医や訪問歯科、矯正歯科、企業への就職など多様な働き方が可能です。人と話すのが好きな人、細かい作業に集中できる人にとくに向いているでしょう。
歯学部を設置している大学を探したい場合は、逆引き大学辞典の「系統別学問内容リサーチ」を活用してみてください。希望の進路に合った大学が見つかるでしょう。